女がとうの昔に悩んだキャリアを、男は20年後に考える

日本とアメリカ両国での就業・就学経験があり、子を持つ母でもある、東京糸井重里事務所CFOの篠田真貴子さんと、cakesの人気連載「アメリカはいつも夢見ている」「アメリカ大統領選やじうま観戦記」の渡辺由佳里さん。共通点の多いお二人に、「働くこと」について語っていただきました。
仕事と母親業とをこなすなかで実感した、働くことの本質、そして、企業と個人が目指すべき、新しい雇用関係とは? 女性はもちろん、働くすべての人に読んでほしい新連載です。

なんでもこい! 我が子は微妙なお年頃?

渡辺由佳里(以下、渡辺) お久しぶりです、真貴子さん。今日はお会いできてとってもうれしいです。

篠田真貴子(以下、篠田) 私も由佳里さんにお会いできるのをすごく楽しみにしていました。日本滞在中の貴重なお時間をありがとうございます。

渡辺 今日は、「働くこと」「子育てのこと」をテーマにお話できたらと思っています。

— そもそもお二人のご関係は、どのように始まったんでしょう?

篠田 たしか実際にお会いしたのは、5年前くらい。ちょうどその日も、息子の誕生日だからって、私が先に帰ったんですよ。覚えてらっしゃいますか?

渡辺 そうそう、覚えています。すごい、あれから5年も経ったんですね。

篠田 もともとは、糸井(重里)と由佳里さんがTwitter上でつながってらっしゃったんですよね。それで、糸井から「渡辺由佳里さんって、篠田さんと合うと思うんだよね」っていう謎の紹介をされて(笑)。

渡辺 それからいろいろあって話が弾んで、真貴子さんと糸井さんが、ボストンまでいらしてくださって。そこではじめてお顔を合わせたんですよね。

篠田 ええ。その日のことは、ほぼ日のコンテンツにもさせていただきました。

— はじめての出会いはアメリカだったんですね。お二人とも、海をまたいでお仕事をされていますが、これまでどんなことをされてきたか、簡単に伺ってもよろしいでしょうか?

篠田 私は、小学校の1年生から4年生までアメリカで暮らし、その後日本に戻って進学、就職しています。最初に入社したのは当時の日本長期信用銀行(現 新生銀行)で、そこを辞めてからまたアメリカに渡って大学院で勉強したあと、インターンをしていたマッキンゼーにそのまま入社しました。
 その後また他の外資系の会社に転職して何社か経験するんです。だから、今の糸井事務所を入れて、全部で5社で働いたのかな。

渡辺 私は、最初のキャリアは助産師だったんです。でも、子供の頃からイギリスに憧れていて、英語を活かす仕事をしたくてイギリスに語学留学しました。その後日本に戻ってきて、日本語学校、広告代理店、外資系企業で英語を使う仕事をし、アメリカ人の夫と出会って結婚してからは、夫の仕事の関係で香港にいた時期もありました。そのころから在宅で翻訳やルポの仕事をしたりして、今はボストンでエッセイを書いたり、翻訳をしたり、アメリカ企業のコンサルタントなどをして暮らしています。

— お二人とも、さまざまなご経験をされているんですね。

篠田 たしかに並べてみると、けっこういろいろなことやってるように見えるかもしれません(笑)。

渡辺 そういうところは私たち、似ているのかもしれないですね。

渡辺 真貴子さんのご子息は、いまおいくつですか?

篠田 このあいだ12歳になりました。

渡辺 男の子だと、もう母親への照れが出てきたりするころですか?

篠田 うふふ。それを確かめようと思ってこの間、「お誕生日おめでとー!」って言いながら抱きついてみたんです。そうしたら嫌がらなかったので、よかったよかった、って(笑)。

渡辺 あら、まだハグが好きなんですね。

篠田 まだオッケーみたいです。本人に、「12歳はもう、大人になっていく感じ?」って聞いてみたら、「ううん、まだ子供!」って、言い切った(笑)。

渡辺 かわいい〜!

篠田 由佳里さんのところは、お嬢さんがお一人ですよね。

渡辺 ええ、cakesの記事でも書きましたけど、もう成人しているんです。でも、そうやって照れたりするのは、微妙に女の子のほうが早いかもしれないですね。

篠田 そうなんですか?

渡辺 ええ。娘が小学校3年生のころかな? 人前では知らない人のふりをしてほしい、っていう時期があったんですよ。

篠田 へえ、女の子にもそういう時期がくるんですね。

渡辺 はい。娘は当時競泳をしていて、水泳大会で熱心な親が子供に関わりすぎるのを恥ずかしく思っていたみたいです。そこで、「マミーはそういうのやめてね」と(笑)。大会では他人のふりをしてほしいって言われたんですよ。
 で、そう言うならと思って知らないふりをしていたら、レースの間に娘がやってきて、ぬれた水着のままで私の膝に乗るってくるんですよ。

篠田 あはは! かわいい。

渡辺 どっちにして欲しいかはっきりしてよ!と(笑)。

篠田 微妙なお年頃だったんですね。

渡辺 そう。だから親としては、どっちのパターンで来てもちゃんと受け止めるぞ!という心構えでいて、いちいち傷つかないようにしていましたね。

篠田 すごくよくわかります。なんでも来いですよね。

渡辺 真貴子さんのところのお嬢さんも、とてもおもしろいですよね。Facebookでの真貴子さんのお嬢さんの話が大好きなんです。すごいネタだらけじゃないですか。

篠田 あはは、ネタの宝庫ですよね。ありがとうございます。お恥ずかしい(笑)。

— 篠田さんは仕事と子育ての両立はうまくいったんですか?

篠田 それが、この話は時々するんですけど、二人とも保育園だったころは、仕事に子育てにと物理的にもう本当に大変で。体力がもたなくてヘロヘロになってしまう時期もあったんです。

渡辺 ええ。

篠田 それで本当に疲れて帰ってきて、リビングの床に倒れて一瞬意識が飛んでいたことがあったんです。そうしたら耳元でジョキって音がして、びっくりして目が醒めて見たら、当時1歳半か2歳の娘がハサミで私の髪を切ろうとしてたんです(笑)。もう危ないったら!

渡辺 耳を切られなくて良かったですね(笑)。

篠田 本当に(笑)。そんなこともありましたね。

働き方に、男女の違いはない

— なかなか壮絶なお話ですね(笑)。お子さんのいる女性の場合、子育てをしながら仕事も続けて、というのはかなり大変そうです。やっぱり、男性と比べて、働き方のパターンを変えなければいけない部分なども出てくるのでしょうか?

篠田 いや、働き方のパターンを変える選択を迫られる、ということにおいては、実は男女でも違わないんじゃないかな。

— え、そうなんですか?

篠田 ええ。違うのはタイミングだけかなと。つまり、女性のほうが、30代前後っていう、わりと仕事でも一人前になっていける時期に出産などのライフイベントがくるので、自分の働き方について早めに考えさせられます。男性が考えさせられる時期は、たいてい、もっと後。だけど、そこで考えなきゃいけない働き方のパターンの変化は男女でも一緒かなと。


渡辺 そうですね。仕事をしたい女性の悩みは、出世したい、いい仕事をしたい、いい環境で働きたいといった男性の悩みと同じであるはずなんだけれど、女性の場合は、子供を産むとしたらいつ産むんだろう?ってこととともに、男性よりも必然的に早めに考えなきゃいけない。自分のキャリアを選ぶときに、そこまで考えた上で働き方を選ばなきゃいけませんよね。もちろん、産まないという選択肢も含めて。

篠田 それはやっぱり女性にしかないことですよね。

渡辺 そう、だからよく、男は女よりも幼稚だとか、成長が遅いって言われたりしますけれど、それは、男性が女性よりも考えなくてもいい時期が長いからだ、ってところもあるかもしれないです。
 cakesの連載「アメリカのエリート女子大生が恋よりも優先すること」でもご紹介したのですが、アメリカでも女の子はすでに高校時代から、ぼんやりでもどういう家庭がほしかったら、どの大学に行って、何を選択して、って考え始めている子もたくさんいるわけです。でも、男性の場合は30歳ぐらいになってようやく「えーっと」と考え始める人が多い(笑)。

篠田 いやいや下手をするともっと遅いですよ。私、40代半ばになって、古い男性の友人としゃべっているときに、若干人生相談みたいになってきたことがあって。

渡辺 どんな相談内容だったんですか?

篠田 今の会社で役員を目指すか、子会社に出向するか、それとも……みたいな話でした。大企業だと、役員にならなかった場合でも受け皿として、子会社のポジションが用意されているんですよね。つまり、日本の大企業で普通に働いてると、50歳ぐらいでようやく選択の時が来るわけですよ。

渡辺 そこで初めて来るんだ。わ〜。

篠田 私が30歳で悩んだ話を今してるって感じで。で、まだ40代のうちであれば転職して、自らの意志で新しくキャリアを積んでいくこともできるんだけれど、そうではなく、会社があてがう子会社という道になってしまうとき、「さて、僕はどうしたいんだろう……?」みたいな(笑)。

渡辺 そこは女性としては、ずいぶん昔に通った道だぞという(笑)。

篠田 そうそう。つまり、「自分のやりたいこと」と、「社会的なモノサシ」を天秤にかけたうえで、自分はどれが一番大事なのかを選ぶという、その選択の質は男性と女性で同じなんだけれども、自問自答をするタイミングはかなり違う。

渡辺 働き方のパターンってお話で言うと、篠田さんが監訳された『ALLIANCE』(アライアンス)という本の中でも、その辺りのことについて触れられていますよね。読ませていただいたんですけれども、すごくいいことがいっぱい書いてあって。

篠田 ありがとうございます。ちょっと説明させていただくと、「アライアンス」というのは、著者であるリード・ホフマン氏が提唱する、新しい雇用の形を表す名称なんです。

— こちらの本ですね。副題にも、「人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」とあります。


ALLIANCE アライアンス—人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用

篠田 はい。それで、このアライアンスというものには大きく分けて「ローテーション型」「変革型」「基盤型」の3つの種類があるんですが、この3つのパターンというのがとても重要で。私はこれが、日本の雇用の文脈でも十分に通用すると考えているんです。

渡辺 ええ。私も、その概念はすばらしいと思いました。これが浸透すれば、働く上でのいろいろな問題が解決して、とても働きやすい社会になると思うんです。

— この対談では、その3つのパターンのことも含めて、家庭を持つ現代人の働き方について、くわしくお話していただきたいと思っています。


次回「トイレ掃除をしてたら貧乏人? 日米の家事と仕事の違い」は6/30(木)更新予定

聞き手:中島洋一、構成:中田絵理香

リンクトイン創業者が提唱する「人と企業」の新しい関係とは。

ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用

リード・ホフマン;ベン・カスノーカ;クリス・イェ
ダイヤモンド社
2015-07-10

この連載について

母が語る、あたらしい働き方—渡辺由佳里×篠田真貴子対談

渡辺由佳里 /篠田真貴子

日本とアメリカ両国での就業・就学経験があり、子を持つ母でもある、東京糸井重里事務所CFOの篠田真貴子さんと、cakesの人気連載「アメリカはいつも夢見ている」「アメリカ大統領選やじうま観戦記」の渡辺由佳里さん。共通点の多いお二人に、「...もっと読む

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コメント

EMIKOpipipipink 納得の記事。早くから悩まされたのは結果的に良かったかも。男女ともに、自ら先を見越してキャリアを見直せる人は素敵。 |@YukariWatanabe @hoshina_shinoda https://t.co/bb6KKFH5fG 約18時間前 replyretweetfavorite

pingpongdash あらためて読み返した。読んでよかったなぁ。-- 9ヶ月前 replyretweetfavorite

syoyuri 大好きなお友達に「読んで!」とメールしたくらい面白かった! 第一回: 最終回:転職は「裏切り」ではないし、解雇通告も「不幸」だけではないhttps://t.co/pTNgpGftg9 約1年前 replyretweetfavorite

syoyuri この連載、素晴らしく面白かった!第一回から是非! 約1年前 replyretweetfavorite