電気サーカス 第70回

常時接続の黎明期。『テキストサイト』をはじめた"僕"は、友人や、高校を入学直後に退学した真赤と気ままな共同生活を送っていたが、生活費を稼ぐためOA機器の修理会社に就職。夏になり、仕事の合間を縫って真赤と京都旅行をすることに。

 そうして新幹線は京都駅に到着した。外はうだるような暑さで、ホームから見える京都タワーが、真夏の日差しを浴びてギラギラと輝いている。
 京都駅構内の壁は、石だかタイルだか知らぬが、真っ黒でつややかな素材で全面が覆われており、和を意識しているのだろうけど、僕にはむしろSFめいて見えた。前に来たときはこうだったろうか? 思い出せない。
 オシノさんとは祇園四条という地下鉄の駅のあたりで待ち合わせをすることになっている。少し時間があったので、駅構内の喫茶店でお茶を飲んでから出発をした。
 キャスターのついた旅行鞄をガラガラと引きずって、街に出る。雑然とした関東平野で暮らしてきた人間には、京都市の碁盤の目状に整えられた道路も、四方を山に囲まれた閉塞感も物珍しく、歩いているだけで旅情を覚えた。
 祇園四条駅というのは四条大橋のそばにあるらしい。あの有名な牛若丸と弁慶の逸話があるのは、あれは五条だったっけ。河原町の繁華街を抜けて、ゆったり流れる鴨川に掛かった橋を渡ったところに、地下鉄の入り口があり、そこで待っているとオシノさんが自転車を漕いでやって来る。
 僕はその顔を知らなかったけれども、真赤が見つけて声をかけた。
「お久しぶり! これがミズヤグチさん」
「あ、どうも。ミズヤグチです」
 僕は紹介されるまま、会釈をした。
 オシノさんは十九歳と聞いていたとおり、年齢相応に見える。黒い髪をひっつめでまとめ、夏だというのに長袖のシャツを着ていた。
「はじめまして、オシノです」
 見知らぬ二人と会うのに若干緊張しているのか、硬さの残る京都訛りで彼女は言った。
 自転車で来ているということは、本当に近くに住んでいるのだなあ。
 旅行に来た先で、その地の人とこんな風に挨拶をすることになるインターネットというものに、いまさらながら不思議な感慨がある。
「ああ、オシノさん、こんにちは!」
 真赤も喜んではしゃいでいる。
「まあ、ここで立ち話をしていても仕方ないから、どこか行こうか」
 炎天下の路上に立ちつくしているのが辛かった僕は、額の汗を感じながらそう提案した。
「オシノさんは、どこか面白い観光地を知ってますか?」
「いや、あの、うちはそういう、面白い場所とか全然知らなくて……」
 オシノさんは戸惑いを見せる。
「僕お寺とか見るの好きなんで、普通に有名な観光地とかでもいいですよ。金閣寺とか銀閣寺みたいなところでも、地元の人間としてお勧めがあったら」
 と尋ねてみても、オシノさんはやはりわからないと首を横に振るばかりだ。
 それどころか、僕が今あげた金閣寺や銀閣寺の位置さえ知らないと言う。一度も行ったことがないと言う。むしろ、そういう寺がこの近くあるのかと、はじめて聞いたとでも言いたげな態度である。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

週刊アスキー

この連載について

初回を読む
電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード