今最前線で活躍するアーティストが一同に会する『六本木クロッシング2016展』

2004年から始まり、日本のアートシーンを総覧する定点観測的な展覧会として、森美術館で3年に一度開催されてきたシリーズ展「六本木クロッシング」。今回の『六本木クロッシング2016展』は、テーマを「僕の身体(からだ)、あなたの声」とし、日本・韓国・台湾の4人のキュレーターによって選ばれた総勢20組のアーティストの作品を展示。「六本木クロッシング」展は2013年に続き2回目という片桐さん、今年はどんな作品に出会えるのでしょうか。
(構成:おぐらりゅうじ

写真に撮って初めてわかる「人間の顔」

— 「六本木クロッシング」には以前も来ていただきましたよね。

片桐仁(以下、片桐) はい。前回の2013年に行きました。

— コンセプトは前回同様、現在の日本のアートシーンを総覧するような展示です。日本と韓国と台湾のキュレーターが協力し、国内外を問わず、いま活躍している日本人のアーティスト20人を紹介しています。

片桐 若いアーティストが多いのも特徴ですよね。あ、展示はすべて撮影OKなんですか。

— はい。たくさん撮って拡散していただけると。

片桐 少し前にやっていた村上隆さんの展示のときも写真撮り放題でした。そういう時代ですね。

— はい、ここで撮った写真をすぐにSNSで世界中に拡散させることも可能ですね。2016年のテーマは、「僕の体、あなたの声」というものです。このように携帯やネットの普及によって、例えば10年前には思いもよらなかった方法でコミュニケーションが図られています。
おそらく若い人たちには当たり前のことでも、ひと世代も二世代も年上の私達には違和感があったり、もしくは新鮮だったりすることもあります。それはこれまでの価値観や既成概念が変わっていくことにつながっています。今回は、そんな新しい身体感覚や感性をもった作家の皆さんを紹介しているのです。

片桐 若い人の感性、楽しみです!

■毛利悠子


「From A」2015‒2016年

— こちらは「From A」というタイトルの作品です。

片桐 1980年生まれの作家さんですか。やはり若い! ここにある「A」から始まるんですね。全体的に道で拾ってきたものみたいですけど……どんな仕掛けなんですか?

— スプーンやトライアングルなどが接触することで軽い電流が流れ、その電流が伝わると、いろんな所が反応していきます。

片桐 へえ。扇風機がまわったり、あっちのLEDライトが点いたり。小さい踏切まであるじゃないですか!

— これを作った毛利悠子さんは、昨年「日産アートアワード2015」でグランプリを受賞した、まさにいま注目のアーティストです。あ、動きましたよ!

片桐 え、どこ?

— 電流に反応して、気まぐれに動くんです。ほら!

片桐 わ、動いた! いまこっちに電流が流れて……ライトが点いた!

— ちょっと動物みたいですよね。

片桐 これぞ現代美術!って感じですね。DIY感があって、全部が丸見えで、そこにあるすべてが作品。それぞれの部品には生活感があって、一見すると何も考えていないような配置に美しさがあり、なおかつギミックもある。全体がエコ的なものに根ざしているようにも感じます。そういう意味では、絵画とは最も遠いところにあるような、若手のグループ展の1つ目にふさわしい作品ですね。


後ろ側はこんな感じ

■石川竜一


《OP.001208 2011 Ginowan》(「okinawan portraits 2010-2012」シリーズより)2016年

— 石川竜一さんは、1984年生まれ、沖縄出身の写真家です。沖縄の人たちのポートレートを撮っていて、2014年度に木村伊兵衛写真賞を受賞されています。

片桐 沖縄の作家さんって、沖縄在住の人多いですよね。ここにある写真は、どれも顔のアップで、迫力あります。

— こちらの方は、おでこに蚊が止まってるんです。

片桐 ほんとだ! 写真でしか表現できない、決定的瞬間を捉えましたね。

— ちょうど蚊が止まって、やった! と思ってシャッターを押したと石川さん本人もおっしゃってました。

片桐 なかでも、このおばあちゃんの写真は強烈ですね……。

— 石川さんとは初対面だったのに、少しずつ会話をしていたら、自分が体験した戦争の話をしてくださったらしいです。ぽろぽろ涙を流しながら。

片桐 目に涙をためている感じ、ありますもんね。きっと石川さんが魅力的な方なんでしょう。どんな顔でレンズを見てくれるのかって、ほんとカメラマンによりますから。

— 石川さんは、市場にいる人や通りすがりの人や友だちや、いろんな人にインタビューしながら撮っているんです。そうすると、それぞれの人の沖縄の話や人生の話が聞ける。

片桐 ここまでアップにすると、普通は変な人に見えちゃうじゃないですか。その人のいる場所とか着ている服とか、情報が一切ないから。でも石川さんの写真は、思いっきり人と対峙している。初対面の人にこういう表情をしてもらえるのは、人間力の賜物だと思います。

— このポートレートのシリーズは、実際は3千人くらいの方を撮っています。

片桐 それだけの人の飾らない写真を撮るって、すごいことですよ。撮られる人間としては、カメラを向けられるとやっぱり構えちゃう。このカメラマンだから笑っちゃうとか、このカメラマンはイヤだなとかって、正直ありますし。あと、そもそも普通に生きてて、ここまで他人の顔に近づくことってないですよね。

— たしかに(笑)。

片桐 だからこの写真たちは、実物のプリントで見てほしい。写真集とかネットで見るのとは全然違いますよ。毛の生え際とか生え具合とか、がっつり見えてます。皮膚にピントが合いまくり。これはもう写真っていうか、皮膚っていうか、もはや細胞を見ている気分ですよ。


映像では皮膚感までは伝わらない

義足のアーティストが生み出す意識と無意識の間

■片山真理


《you’re mine #001》2014年

— こちらは片山真理さんというアーティストです。もともと彼女は細かい縫い物が得意で、それを活かした作品になっています。


《Beast》2015年 《Doll》2009年


《you’re mine #000》2014年


《Thus I Exist - doll》2015

片桐 全部手縫いなんですね。あ、髪の毛が入ってる! ロープの中にも! これ本物の人毛ですか?


《Thus I Exist - doll》2015

— 本物です。こちらの写真が彼女のポートレート。ご覧のように、彼女は足がありません。


《you’re mine #001》2014年

片桐 生まれたときからですか?

— 先天性の病気で、9歳の時に両足を切断したそうです。左手の指も二本しかなく、義足で生活しながら、モデルや歌手の活動もしています。

片桐 歌も歌うんですか。

— すごくお上手ですよ。シャンソンみたいな感じで。

片桐 1987年生まれ、まだ20代なんですね。若いなぁ。

— ポートレイトは«you’re mine #001》というタイトルの作品で、そのまま「貴方は私のもの」と訳すと恋愛っぽく聞こえますが、彼女にとっての「you’re mine」は違います。普通に歩いている人をよく観察して、それを真似して自分の中にインストールして、ようやく歩けるようになった、という意味が込められているんです。活動を始めた頃は、先程の刺繍などを作品にしていましたが、ある先生から「自分を写真に撮ったらいいんじゃないか」とアドバイスを受け、写真を撮るようになり、それ以降、自分と向き合う作品を作り続けています。


《子供の足の私》2012年


《小さなハイヒールを履く私》2012年


《shell #2》2016年

片桐 これらは合成ではなく写真なんですか?

— 写真です。自分のお家で撮影しています。

片桐 背景の装飾が強いので、一見すると足がないことに気付かないですね。それに顔のインパクトも強いし、近づきがたい美しさがある。自分も、自分の境遇も、自分のまわりのものすべてを作品にしているんですね。それだけにショッキングだし、ドキッとさせられます。それに、お腹や胸がムチムチしているのが、すごく生っぽい。よく見ると、傷やアザがありますけど、これは義足を付けた痕ですよね。繋がりのところで炎症を起こすから。

— あるとき、心無い人から「ハイヒールを履かない女は女じゃない」というようなことを言われたらしくて。それで彼女は自分の義足に合うハイヒールを作ってもらい、それを「ハイヒールプロジェクト」と名付けて、ハイヒールをはいてイベントやライブに出たりしています。

片桐 アーティストという職業を見つけて、得たものは相当あるでしょうね。この体が、むしろ武器になったことは、人生に計り知れない影響を与えたと思います。でも一方で、人はアーティストとして生まれてくるわけではないので、普通の女の子でもある。その狭間で揺れ動いているような気がします。

— 作品の額縁なんかも、ご自身で作っているんです。

片桐 わ、貝がびっしり!

— 貝だけでなく、スワロフスキーを使ったり、いろんな柄も彼女が自分で描いています。

片桐 ここまでくると、ちょっとホラーでもありますね。エロスも感じますが、髪の毛とかはさすがにこわい。強烈なトラウマがびんびん伝わってきます。それが彼女の原動力でもあるんですけど。よく「欠点を武器にしろ」とは言われますが、そんな簡単にはいかないですよ。その葛藤が全部、作品に出ています。刺繍の作品も、ちくちく針で縫いながら、それに没頭することで救われることもあるんだろうな。こういうものを作ろうっていうよりは、こういうものが出てきちゃいました、っていう感じ。意識と無意識の間にある作品。ただ、彼女はこれからアーティストとして認められたら、きっと変わると思います。20代のうちは、承認欲求もあるだろうし、まわりの目が気になる年頃だし。さらけ出したい自分と、出したくない自分があって。とにかく、今後が楽しみですね。

■山城大督


《トーキング・ライツ》2016年

■さわひらき


《カメラの中の男(自画像のための習作)》2016年

■高山明


《バベル》2016


《バベル》2016

■野村和弘


《笑う祭壇》2015年

■ミヤギフトシ


《花の名前》2015年

■後藤靖香


《あいおいばし》2013年

片桐 でっかい絵だ! すげー!

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片桐仁のアート探訪

片桐仁

アートに興味はあるけれど「楽しみ方が分からない」と感じている方も多いのでは? そんな悩みを解消すべく、お笑いコンビ「ラーメンズ」の片桐仁さんがアートの魅力を徹底解剖! アートが大好きで、粘土作家としても活躍する片桐さんが美術館を巡り、...もっと読む

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コメント

katayamari わー!いま気付きました。六本木クロッシングに 4年以上前 replyretweetfavorite

yuhyuh__ 見ていて気づけなかった部分や、作者の創作動機なんかも書かれていたので、面白かった。 4年以上前 replyretweetfavorite

atsushiwatarai 触れられると作品触れられない作品の面白さと、やっぱりおもしろいと 思うものはかぶるもんなんだなと 4年以上前 replyretweetfavorite