こんにちは、外科医の雨月メッツェンバウム次郎です。
梅雨も半ば、古い暦の七十二候では「腐草為蛍(くされたるくさ ほたるとなる)」と呼ばれる時期になりました。昔の人は腐った草がホタルになると考えていたのですねえ。ホタルの見物にでも出掛けたいところ。
さて、今回は学歴コンプレックスについてお話を致しましょう。
突然ですが、これをお読みのあなた、学歴コンプレックスを持っていますか? 持っていますという方。私は貴方を信用します。持っていませんという方。少しこのお話にお付き合い下さい。
コンプレックスという言葉は、マザーコンプレックス(マザコン)やロリータコンプレックス(ロリコン)、オイディプスコンプレックス(オイコン……? )など、よく耳にします。でもこれ、正式には「劣等コンプレックス」というのが正しいのですが、最近では◯◯に関する失敗体験があり強い引け目を感じている、つまり劣等感という意味で◯◯コンプレックスと使われます。ちょいと不正確ですが、広く使われているのでこの意味でいきましょう。長いので学歴コンプ、にしますね。
実は医者の世界にもこの学歴コンプは存在します。本当のところ、存在する、なんてものではなくほぼ全ての医師の心の中には学歴コンプが強くこびりついています。それには2つの理由がありまして。
1つ目は、「医学部入試カースト」があります。大学医学部には大きくわけて2種類あり、私立と国立があるのはご存知でしょうか。で、はっきり書きますが私立医学部は国立よりも圧倒的に受験が簡単です。例外の1校を除いたら、その差は歴然としている。国立医学部はほぼmaxの科目数をセンター試験で受け、さらに全部で90%くらいの得点率が必要です。理系ですけど古文も漢文もですよ。一方私立は英語数学理科くらいの大学が多いですね、受験に必要な科目数が少ないのです。私立は学費がハイパー高い(3000万円〜1億円/6年)ので、受かるもんなら誰でも国立に行くのです。国立の授業料は他学部と同じですから、6年間でコミコミ300万円くらいでしょうか。1/10以下です。
そして国立の中にもはっきりと序列があります。ざっくり言うと東大・京大を始めとする旧帝国大学、そして旧制高校だった大学、新設大学という順にレベルが下がっていく。例えば東北地方では東北大学が牛耳っていますし、九州では九州大学が神様です。
そしてもう一つの点が、大学入試の難易度の序列とその大学医学部の格や規模の序列がほとんど一致しているという点。東大を出たドクターはほぼ都内の大病院の部長などになれますし、逆に私大医学部出身で東大医学部の教授になるのは100%不可能です。私大(のしかもあまり評判の良くない)出身ドクターの中には「恥ずかしいんですが◯◯大出なんです」と自己紹介する先生は少なくありません。ひどい学歴コンプでしょ。
え、「雨月はどうなんだ」って?
私は国立のそれほど良くはないランクの大学出身なので、正直学歴コンプがないと言ったら嘘になります。東大に入れるもんなら入りたかったに決まってますから。
医者の話はこんな具合ですが、医者でない世界の人からもしばしば私は学歴コンプの話を伺います。不思議なもので、低いレベルの大学の人よりもある程度高い人の方が強いコンプレックスを持つのですね。早稲田・慶応の法学部生には激しい東大コンプレックスを持つ人がいて、それを母校への愛校心という形で消化しているケースも散見されます。
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