スマホの音声入力が、仕事の生産性を上げる?

スマートフォンに搭載されている音声入力機能。使ったことのある人はどれくらいいるでしょうか?
ミリオンセラー『「超」整理法』などで知られる野口悠紀雄さんは、1冊まるごと音声入力を使って書いた本『話すだけで書ける究極の文章法〜人工知能が助けてくれる!』を出版しました。音声入力はキーボード入力に比べて何が優れているのか、音声入力が「アイディアを成長させるための装置」とはどういうことか、音声検索を使って何ができるのかなどについて、前編・後編にわけてお届けします。(聞き手:加藤貞顕)

キーボード入力がいくら速くても、音声入力の方が優れている理由

— はじめまして。お会いできて光栄です。野口先生の著書はほとんど読んでいます。『「超」整理法』は学生のころに実践してましたし、それと『「超」文章法』もアイデアやロジックの作り方がしっかりと書かれていて印象的でした。

野口悠紀雄(以下、野口) ありがとうございます。

— 今回は、スマートフォンの音声入力をテーマにした『話すだけで書ける 究極の文章法』の話をうかがわせていただければと思っています。で、この本ですが、ぜんぶスマートフォンの音声入力で書かれているんですよね。執筆のきっかけは何だったんでしょうか?

野口 出版元の講談社と『「超」整理手帳』というiOSアプリを提供しているのですが、そのアプリでは、iPhoneの機能で音声入力できる。「だったら長文も入力できるんじゃないか」と思いついて試してみたら、実に簡単に、実に正確にやってくれる。これには驚嘆しました。それで、すぐに本書を音声入力で書き始めたわけです。

— ぼくもこれまでPCなどでの音声入力はさんざん試してきたのですが、どれも実用度が低くて失望してきたんですよ。しかしながら最近、スマートフォンでやってみたら抜群によくて。これはすごいぞと思ってtwitterでつぶやいたら、野口先生の担当の講談社のかたから声をかけていただき、このインタビューが実現しました。 ところで、音声入力の話を人にすると、「PCのキ―ボード入力のほうが速い」と言う人が結構多いんですよね。僕自身も、キーボード打つのは速いので、最初はそう思ってました。

野口 私もキーボード入力は速い方です。もちろんタッチタイピングですし。それでも音声入力をしてみて最初に感激したのは、キーボードと比べて10倍くらいのスピードで書けたということです。

— そんなに速いんですか。

野口 ただし、そのあとわかったのは、音声入力しただけでは完成した文章にはならないということです。まだ誤変換は多いし、どうしても編集が必要になります。だから、全体としてかかる時間はキーボード入力とそれほど変わらない。

— そうすると、音声入力には「速さ」以外のメリットがあるということですね?

野口 そうです。じつは音声入力は、「速さ」よりも「楽に」書けるというのが一番大きいのです。どういうことかというと、これまでは、書く時にはPCの前に座っていました。しかし、PCの前に座るまでが大変だったんです。要するに、なかなか出発できない。

— いやあ、そうですね。PCの前に行っても、構えちゃって、ちゃんとしたことを書こうと思ったりして、なかなか指が動かないです。

野口 そこが非常に重要なんです。多くの人は、ちゃんとしたこと、つまり、ある程度、全体の構想ができた時に書こうとしますね。PCは、書きたいところから書いていけるから、紙に書くのに比べたらだいぶ楽になりましたが、それでもまだ書き始めるのには時間がかかります。それが、音声入力なら、何かを思いついたらすぐに話すだけでメモできる。そのメモが次々に積み重なっていくことで、だんだんと形ができあがってきます。これによって、文章を書き始めるのが非常に楽になりました。

— 文章を書く心理的ハードルが下がったということですね。

ジョギング中でも、ベッドの中でも書ける

野口 しかも、いろんな姿勢で書けるわけですね。歩いていても書けるし、寝転がっていても書ける。私は毎朝1時間、ジョギングしながら書いているんですが、それでだいたい3000字くらい書き上げます。

— ジョギングしながら書くというのは、具体的にはどうやってるのですか。

野口 スマホを手に持って、しゃべりながら走ります。風の音や雑音は無視してくれます。

— すごいなあ。あと、音声入力はベッドで寝ながら書けるのもすごいですよね(笑)。

野口 「起きた時にいいアイデアを思いつく」という人はたくさんいて、これまでは、そのために近くにメモ用紙とペンを置いて、起きたらそれに突進するわけです。今やそれが不要になった。ちなみに、シューベルトは、ベッドの中で思いついた曲をすぐに書きとめられるように、寝る時も眼鏡をかけていた。当時、スマホと音声入力があれば、シューベルトの生産性はものすごく上がっていたと思いますよ。交響曲をあと20曲くらいは作っていたんじゃないでしょうか(笑)。

— (笑)。そうなんですよね。メモ帳とペンを探しているあいだに忘れてしまったりしてましたよね。音声入力ならその問題がなくなりますね。

野口 そうです。アイデアが生まれてくる時には、書くスピードが追いつかない。しかも、紙に書いたアイデアは必ずその紙自体をなくすんですね。

— なくなりますなくなります(笑)。

野口 音声入力は、なくなりません。クラウドにデータが保存されますから。

アイディアを生み出しやすくなる

— メモが楽になったことで、生産性が高くなるという話でしたが、著書の中で「音声入力はアイデアを成長させるための装置」ともおっしゃっていますね。どうしてアイデアにも関係してるんですか?

野口 アイデアを生み出すには集中力が必要なんですが、メモを見ると、集中しやすくなるからです。

— 集中力、ですか。

野口 ニュートンもアインシュタインも、極度に集中したからアイデアを生み出せた。しかし、人間は、そう簡単に集中できない。たとえば、明日の企画会議に出すアイデアを考えるとします。普通はそのことについてずっと考えてはいられません。そもそも集中できないのは、人間の本性なんです。

— どういうことでしょうか?

野口 原始時代、一つのことに集中していたら、野生動物に襲われてしまいます。つまり注意力を散漫にしていなければ生き残れなかったんです。もし、ニュートンやアインシュタインが生まれたのがあの時代だったら、すぐに殺されていたと思いますよ(笑)。要するに、注意力散漫というのは人間が生き延びるために必要な本能で、それが今に至るまで続いているわけです。だから普通の状態では集中できなくて当たり前です。しかし、「文字」を見れば集中できる、というのが私の考えです。先ほどの話に戻りますが、企画会議に出すアイデアを、頭のなかでずっとこねくりまわしていても集中できませんが、思いついたことを文字にして、その文字を見れば集中できる。

— そのためには文字を簡単にアウトプットできた方がいいと。

野口 音声入力で簡単にアウトプットして、その文字を見ていれば、そこから何かを思いつきます。それをさらに書いていく。そうすればアイデアが成長していきます。「書くことがないけど、どうしようか」という場合でも、この方法を使えば必ず突破できます。

— たしかにそうですね。ただ、音声入力いいよって話をぼくが人にしても、「加藤さんはしゃべるのが得意かもしれないけど、私はそんなにうまくしゃべれる気がしないから…」と言われるんですよ。

野口 それはそうです。音声入力をオンにして、「さあしゃべってください」と言って、しゃべれる人はまれですよ。たいていは、「あー」とか「うー」しか出てこない。それが普通なんです。でも、たとえば明日までに締め切りがあるとか、強い圧力のもとで集中すれば出てくるんですよ。何度も言いますが、集中するためには文字を見ていないとダメなんです。そうしないと考えが固定しないんです。 だから、私のセオリーにもとづけば、ロダンの彫刻「考える人」は、「考えてない人」です(笑)。何も見てないですから。考えあぐねているだけ。考えている人なら必ず何かを見ているはずです。

人前でやりにくい問題

— アイデアやその断片を思いついた時、自宅であれば簡単に音声入力ができますが、人前ではなかなかやりにくいですよね。野口先生は、この「人前でやりにくい問題」をどうやって解決しているんですか?

野口 ある程度は、慣れの問題です(笑)。

— なるほど(笑)。

野口 今はみなさん、街を歩きながら携帯電話をかけていますね。スマートフォンで音声入力をする姿勢は、通話をしている時とほとんど同じなので、周りから変に思われることはありません。私は、今や空いている電車の中でもできるようになりました。満員電車の中でできるかと言われたらできませんが(笑)。

— オフィスでもやりにくいですよね。

野口 そうですね。でも、本当にいいアイデアを思いついたら、席を立って廊下に行く。それで廊下でやってしまいます。

— なるほど。それと、すごくいいなと思ったのが、打ち合わせが終わった後、帰り道で歩きながら入力できることですよね。

野口 頭のメモリーがフレッシュな間、家までの帰り道にその時のアイデアを忘れないうちに書く。それはすごくいいことです。それから、私が提案したいのは会議の議事録を自分から進んで作ることです。議事録は面倒くさいから誰も作りたがらない。でも、家に帰る前に音声入力で作って、頼まれていなくても自発的にみんなにばらまく。そうすると「あいつはできる」ということになって、出世の入り口になる。

— そうですね、新人がいい会議メモを作ってくれたら、それだけで目をかけられて、チャンスが増えますからね。

野口 この本の編集メンバーでブレーンストーミングを何回かやったのですが、ブレーンストーミングが終わったあと、私は家につくまでの間にその内容を音声入力で必ずまとめていました。

— それ、編集担当のかたからうかがいました。打ち合わせの議事録が野口先生から送られてくると。そんなことをする著者さんはいないですよね(笑)。

野口 でも、私はそれをもとに原稿を書くわけですから、非常に効率的でした。

— なるほど(笑)。こうやって音声入力や音声認識が発達してくると、単なる入力の問題にとどまらず、社会や教育も変化していく可能性がありますよね。

(後編「"ネットで検索できるから、知識は必要ない" は本当?」は、6/21更新予定)

構成/撮影:小林ぴじお



まるごと1冊音声入力で書いた初めての本!



この連載について

話すだけで書ける究極の文章法—野口悠紀雄インタビュー

野口悠紀雄

スマートフォンに搭載されている音声入力機能。使ったことのある人はどれくらいいるでしょうか? ミリオンセラー『「超」整理法』などで知られる野口悠紀雄さんは、1冊まるごと音声入力を使って書いた本『話すだけで書ける究極の文章法〜人工知能...もっと読む

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コメント

senya_aoki https://t.co/V4I2jpTeT2 6ヶ月前 replyretweetfavorite

isogh 試してみた 句読点の打ち方が分からない 確定の方法も分からない 固有名詞が出てこない ラグビー用語も出てこない やっぱり使えない https://t.co/TSk3s2jY6S 6ヶ月前 replyretweetfavorite

tomotks ああそれは大いにありうる、、"文章を書く心理的ハードルが下がる" https://t.co/ljqa2XuVnu 6ヶ月前 replyretweetfavorite

takuramix これ、やってみると、妙な事に気づく。多分、文字で書くのと話すのは使ってる脳が違う。> 6ヶ月前 replyretweetfavorite