「右」からは「左」、「左」からは「右」と呼ばれる
小林よしのり(以下、小林) 「ゴー宣道場」に呼んだことのある元共産党員の松竹伸幸さんが、NHKに「自分と小林よしのりが韓国に行って慰安婦の取材をするから、それで番組を制作してくれないか」と企画を持ち込んだそうなんです。そうしたら、NHKのスタッフに「小林よしのりは左翼だから駄目だ」といわれたんだって(笑)。たしかに、松竹さんは左翼なんだけどさ。
清水克衛(以下、清水) いろんな意味でねじれてますね。NHKが「右翼だから駄目だ」というなら、まだわかりますけど。
小林 そうそう。ちょっと前までは、ネトウヨがNHKを「左翼だ」「反日だ」と攻撃していたからね。ところが安倍政権ができると、百田尚樹や長谷川三千子みたいな安倍政権の支持者が次々とNHKの経営委員会に入った。すると、安倍政権を批判する人間は「左翼」ということになってしまった。だからわしも、NHKから見ると左翼になってしまうわけ。左翼側からは「ネトウヨの生みの親」といわれ、NHKからは左翼といわれるんだ。
清水 いまの時代は、安易に「右」だの「左」だのと分けることにあまり意味がありませんよね。その前に、まずは「そもそも論」を考えなければダメだと思うんです。それがないと、知らないうちに流されてどこかに運ばれてしまう。その「そもそも」を考えるのに必要なのは、右でも左でもない「中庸」の感覚だと思うんですけど、小林先生の本にはそれがあります。
小林 なかなか珍しい評価です(笑)。清水さんのように二〇年も前からわしの本を全体的に読んでくれている人は、そう思ってくれるんですよね。『戦争論』の前には『脱正義論』や『差別論』があったわけだから。でも実際には、『戦争論』が売れすぎちゃったせいもあって、それ以降のわししか知らない人が多いんです。
清水 そうなると、かなりイメージが違いますよね。
小林 しかも、最近になって『戦争論』を読んだ人たちは、わしが最初にそれを描いた当時の感覚がわからない。あの時代の日本は左翼的な言論が圧倒的に優勢で、大臣が「戦前の日本は韓国でよいこともした」と発言しただけでクビが飛んでいたんですよ。愛国心やナショナリズムが極端に否定されていて、昔の日本はとにかく悪いことしかしなかったといわれていた。戦前、戦中の日本を肯定的に評価する発言は、ほとんどタブーだったわけ。そういう時代の空気の中でわしがあの『戦争論』を描いたことの意味は、いまではわかりにくいでしょ。そういうこともあるから、わしの本をいつ、どこから読んだかによって、見方が違ってくるんだよね。
「ゴー宣」すら読めなくなった現代人
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