第8回】効果—膨らみ続ける日銀の総資産 「ヘリコプターマネー」の勘違い

日銀の本来の役割は「物価の安定」、すなわち「デフレ脱却」だ。しかし、そもそも国民は本当にそれを望んでいるのだろうか。日銀が行っている「生活意識に関するアンケート調査」(12年12月)の結果を見ると、実に回答者の85%が、インフレは困ったことだと回答している。

 「日本の金融政策に関する若干の考察」。2003年、こう題した日本講演で日本銀行の量的緩和の不足ぶりを批判したとされるバーナンキ氏(現FRB議長)は、ひっそりと日銀の審議委員を訪ねていた。

 「購入している国債は、どうやって売るつもりなのか」

 量的緩和の技術的な手法を説明すると、バーナンキは「そんなことができるのか」と感心して帰っていったという。

 日銀は欧米に比べ緩和が足りず、それが景気改善の効果が出ない理由だと批判されるが、FRBよりもはるかに早い時期から資産を拡大させてきたのが実態だ(図参照)。こうした超金融緩和策の領域に踏み込んだのは世界初なのだから、各国中銀が日銀に技術を教わりたいと思うのも無理はない。

 それでも緩和不足という批判を招くのは、FRBの積極的な資産購入が、「実体経済への刺激効果ではなく、ドル安を引き起こすという意味で成功していたから」(田中隆之・ロンドン大学客員研究員)だろう。本誌が今回、東証1部上場企業の連結売上高上位500社に対し実施したアンケートでも、企業は日銀の緩和の効果として「円高是正」を第一に挙げている。

 こうした企業の認識には「為替レートは通貨間の相対的な関係」という視点が欠けている。自国通貨の価値を動かすことは、その裏方の他国通貨、とりわけ米ドルを動かすことに他ならない。相手国の通貨当局の完全な理解と協調を得られなければ、自国の経済運営上の理由から勝手に動かせるものではないのである。

 だからこそ為替政策は政府(財務省)の仕事であり、外交問題そのものなのだ。日銀は外交に直接関与できないのだから、円高是正を日銀に求めるのも筋違いだ。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

週刊ダイヤモンド

この連載について

日銀陥落【3】~金融緩和の誤解と限界

週刊ダイヤモンド

安倍政権の言う「物価目標2%」が民意だというなら、それは聞き捨てならない。国民の多くはそれを求めていない上、大きな副作用も孕んでいるからだ。金融緩和には、誤解と限界がある。 本誌・新井美江子、池田光史、中村正毅、前田 剛 ※この連載は...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

geo_frt 金融緩和(ダイヤモンド) https://t.co/eQyHey5C1d 4年以上前 replyretweetfavorite