読みもしないで批判をするな
清水克衛(以下、清水) このたびは対談企画をお引き受けいただき、ありがとうございます。突然、ぶしつけにお手紙をさし上げたときは、こんなにすぐ実現するとは思っていませんでした。でも、引き受けてくださるんじゃないかな、という予感は少しありました(笑)。
小林よしのり(以下、小林) お手紙を拝読したら、わしの本をよく読んでくださっているばかりか、お客さんに薦めてくれているというので、感激しました。それに、わしの本を読まずに「変な偏見を持つ読者がいる」と書かれていたのを見て、「たしかにそうだな」と思ったんですよ(笑)。たとえば昨年(2015年)にSEALDsの若者と初めて対面したときも、いきなり謝罪を求められた。
清水 いったい何を「謝れ」というんですか?
小林 「ネトウヨも安倍政権も小林よしのりがつくった」「あなたは『戦争論』(幻冬舎)を書いたことを反省しないのか」という話。会うなりそこから始まったので、ものすごくビックリしましたよ。わし自身は、どちらかというと彼らを擁護したい気持ちがあったから。まさか謝罪を求められるとは思わなかった。
清水 なぜ擁護しようと思われたんですか?
小林 SEALDsが登場したときに、保守の側が「そんなことをしていると就職先なくなるぞ」などとガンガン批判していたから、「それは言いすぎじゃないか?」と思っていたんですよ。わしはネトウヨや在特会などの差別主義や排外主義が嫌いで、劣化した右翼とは違う若者が出現したのかと期待してしまったんです。もちろん、その一方で、彼らの運動には警戒心も持ったんですけどね。わしは薬害エイズ事件の経験があるから、学生たちが運動やデモに関わることの危うさも知っているわけ。
清水 その顛末は『脱正義論』(幻冬舎)で読みました。
小林 あのときは、いろんな市民団体や左翼団体が近寄ってきて、学生たちがそこにオルグされてしまう危険もあったんですよ。SEALDsもそれと同じことになりかねないから、ちょっと忠告しておきたい気持ちもあった。ところが、ある出版社のセッティングで行ってみたら、いきなり謝罪の話から入れという始末です。
清水 どうしてそういう話になってしまうのでしょう。近ごろ、善と悪というレッテルを簡単に貼りすぎるきらいがありますよね。そういうのを、禅の世界では「二見(にけん)に堕す」といって、本来はあまりほめられたことではないんです。
小林 いったい彼らが『戦争論』をちゃんと読んだのか、読んだとしたら、どのように読んだのかがわからない。
清水 読みもせずに先入観を持ってる人も多いんじゃないですか。
小林 最初の『戦争論』が出たのは、もう17~8年前だからね。いまの学生はそんなに読んでいないかもしれない。清水さんはいつごろから、わしの本をお店で薦めてくれるようになったんですか?
清水 20年前に「読書のすすめ」という書店を始めたときからずっとです。いまでは、近所に住んでいる小学館の営業担当者が「小林先生の本を日本でいちばん売ってるのはここかもしれない」といってくれるほどになりました。最近も『大東亜論』(小学館)が300~400冊ぐらい売れています。頭山満(とうやまみつる)翁の話はほんとしびれますね。
小林 それはすごい。ありがたいことです。だけど、店主が客に本を薦める書店というのはめずらしいよね。
清水 うちの店は江戸川区の篠崎というところで、駅から歩いて6~7分。立地条件はあまりよくないと人様からよく言われるのですが、その場所を自分で選んだわけではないんです。じつは私、大学時代は柔道部でバリバリやっていまして、その柔道部の先輩がそこにマンションを建てたんですよ。それで、「1階をテナントにしたから、おまえ、ここで何かやれ」という。先輩には「はい」としか答えられませんから(笑)、しかたなく本屋をやることにしたんです。ところが、取次に「こんなところで本が売れるわけないだろう。バカじゃないのか」と大反対されたんですよ。腹が立ったので、「売れないなら自分で薦めればいいじゃないか」と思い、屋号も「読書のすすめ」にしました。
小林 20年前だと、『戦争論』より前だね。
清水 ちょうどオウム真理教事件のころです。当時は、教団の本を出していたオウム出版の営業マンもよくうちに来ていました。素直でまじめでいい奴でしたよ。だから「おまえ、目を覚ませよ」とか「君のような立派な人間は、あんな危なっかしい宗教から離れて、自分で宗教を始めればいいじゃないか」なんて説教してたんです。小林先生がオウムに襲われたと知ったときは、これは俺もヤバいかもしれない……と、少し怖くなりましたね(笑)。それはともかく、小さな店ですけど、20年やっているうちに、全国からいろんな人たちが来てくれるようになりました。
小林 わしの本を薦めたときの反応はどんな感じですか?
清水 最初は「えっ?」と怪訝そうな顔をする人が多いですね。
小林 まあ、世の中がナショナリズムを悪しきものとして否定してきたから、警戒する人は多いんだろうなぁ。
清水 それで「読んだことあるの?」と聞くと、読んでないんですよ。そこに何が描かれているかも知らずに、妙な先入観を持ってるんでしょうね。
<次回は7月13日公開予定>