僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
僕の部屋
ユーリ「いろんな種類の数があるんだにゃあ。数から別の数を作ってく……」
僕「そうだね。《整数》という数から、$3$で割った余りを考えることで《$3$角形の整数$\{0,1,2\}$》を作った……ん? 待てよ、 ということは、もっとおもしろいものが作れそうな……」
ユーリ「なになに? どんなの?」
僕「うん、きっと《おもしろい数》が出てくるはずだよ。ちょっと待ってくれるかな、ユーリ」
ユーリ「やだ」
僕「え?」
ユーリ「待つの、やだ。お兄ちゃん、いまから一人で、さっさかさっさか計算しようとしてるでしょ。 そーゆーのやめてほしーな。いっしょに計算しよーよー」
僕「……わかった。わかったよ。じゃあ、いっしょに計算しよう。途中で行き詰まるかもしれないけどね」
ユーリ「ユーリが助けたげるよ」
僕「頼もしいな……」
余りを考える
ユーリ「そんで、お兄ちゃんは何を計算しようとしてたの?」
僕「さっきは《整数を$3$で割った余り》を使って計算をしていたよね」
ユーリ「そだね。$\{0,1,2\}$でしょ?」
僕「整数を$3$で割ると、その余りは$0,1,2$のどれかになる。そして、$3$で割った余りというのは、掛け算を使って表すことができるよね」
ユーリ「余りを、掛け算を使って表す……?」
僕「そうだよ。具体的にはこういう式のこと」
整数$n$を$3$で割ったときの余りを$r$とすると、次の式が成り立つ。
$$ n = 3q + r $$
ただし、商$q$は整数。また、余り$r$は非負整数で、$3$以上ではない。
ユーリ「えーと。どゆこと?」
僕「$n$という整数が与えられたとする。その整数$n$を$3$で割って余り$r$を求めたときには、 $n = 3q + r$が成り立つよ、ということ。 言い換えると、 $n$から$3$の倍数$3q$を引き算して、 その結果が$0,1,2$になるようにする。それが余り$r$だという話だけど」
ユーリ「うわ、何そのややこしー言い方!」
僕「でもそうだろ?」
ユーリ「$n$から$3$の倍数を引いて、残ったのが$0,1,2$になってたら、それが余り。余りは$3$以上ではない。ま、そだね」
僕「たとえば、$7$を$3$で割るとする。$3$の倍数として、$3\times2 = 6$を選んで、$7 - 6 = 1$を計算して余りが$1$になる。それは、さっきの式、 $$ n = 3q + r $$ で、$n = 7, q = 2, r = 1$にしたことになる」
ユーリ「めちゃめちゃくどいけど、いーよ」
僕「いまは$3$で割ったけど、一般化することも簡単にできる。《$3$で割る》代わりに《$m$で割る》んだよ」
ユーリ「でたな。お兄ちゃん得意の一般化! でも$3$を$m$にするだけじゃん」
僕「そうだね」
整数$n$を$0$以外の整数$m$で割ったときの余りを$r$とすると、次の式が成り立つ。
$$ n = mq + r $$
ただし、商$q$は整数。 また、余り$r$は非負整数で、$|m|$以上ではない。
ユーリ「ほほー。いま、さりげなーく《$0$以外の》って条件付けたね、$m$に」
僕「さすがにめざといな。そうしないと《ゼロ割》が起きてしまうからね」
ユーリ「ふふん」
僕「絶対値は見逃した?」
ユーリ「え?」
僕「ほら、『余り$r$は非負整数で、$|m|$以上ではない』というところ。$m$じゃなくて$|m|$だよ。 こうしておくと、$m < 0$のときでも余りが定義できる」
ユーリ「なーるほど……って、それでいいの?」
僕「いいよ。たとえば、$n = 8$を$m = -3$で割ることを考えてみよう。そうすると、 $$ n = mq + r $$ を満たす数として、$n = 8, m = -3, q = -2, r = 2$が得られる。 だから、この定義だと、$8$を$-3$で割った余りは$2$になるね」
別の掛け算へ
ユーリ「ところで、お兄ちゃんがやりたかった計算って、これのこと? 余りをわざわざくどく書くの」
僕「いやいや、話はここから始まるんだ。僕たちは《掛け算》を使って《余り》を求めるアイディアを式として整理した。さっきの、 $$ n = mq + r $$ という式のことだよ。 そこで今度は、まったく別の《掛け算》を使って、そこでの《余り》を考えてみよう」
ユーリ「なんですって? 別の掛け算……それはどんなものなんですか、センパイ!」
僕「テトラちゃんの真似しなくていいから」
ユーリ「ちぇ」
僕「そういう小芝居はいいよ。僕たちがここから考えるのは《多項式の掛け算》だよ。 多項式の掛け算を使って、割り算と余りを考える」
ユーリ「多項式って、$x + 3$や$x^2 + 2x$とか、そーゆーのだよね。掛け算知ってるよ。$2x + 1$と$x + 3$を掛けて、 $$ \begin{align*} (2x+1)(x + 3) & = 2x^2 + 6x + x + 3 \\ & = 2x^2 + 7x + 3 \end{align*} $$ みたいなの」
僕「そうだね。いまのユーリの計算では、多項式の《加・減》と《乗》を使ったことになる」
ユーリ「《減》は使ってないけどね……そんで?」
僕「うん。多項式での乗算ができるということは、さっきの《$m$で割った余り》みたいに《多項式で割った余り》 を考えることができるんだ」
ユーリ「ほほー! 掛け算を使って余りを考える……」
僕「こんなふうに書いてみよう」
多項式$n(x)$を$0$以外の多項式$m(x)$で割ったときの余りを多項式$r(x)$とすると、次の式が成り立つ。
$$ n(x) = m(x)q(x) + r(x) $$
ただし、商$q(x)$は多項式。 また、余り$r(x)$は多項式で、$r(x)$の次数が$m(x)$の次数以上ではない。
ユーリ「あっ、おもしろい! さっきと同じ形!」
$$ n = mq + r $$
多項式$n(x)$を多項式$m(x)$で割ったときの、余りの多項式$r(x)$
$$ n(x) = m(x)q(x) + r(x) $$
僕「そうそう、こうやって式を並べてみると、確かに$r(x)$は《余り》という感じがするよね。整数では、余り$r$に対して《$|m|$以上ではない》という条件が付いた。 多項式では、余り$r(x)$の次数に対して《$m(x)$の次数以上ではない》という条件が付く。 似てるよね」
ユーリ「次数って何だっけ。$x^2 + x + 1$が$2$次式とかゆーアレ?」
僕「そうだね。$x^2 + x + 1$が$2$次式とかいうソレ。多項式$x^2 + x + 1$の次数は$2$だね。 $x^2 + x + 1$という多項式には$x^2$という$2$次の項と、 $x$という$1$次の項と、$1$という$0$次の項があるから、 最高次数である$2$次をこの多項式の次数と決める。 ちゃんと書くと、 $$ a_nx^n + a_{n-1}x^{n-1} + \cdots + a_2x^2 + a_1x + a_0 $$ という多項式は$a_n \neq 0$のとき《次数が$n$である》と呼ぶことにするんだよ」
ユーリ「ダウト。それだと、$0$の次数が決まんないね」
僕「うん? ……おっと、確かにそうだな。$0$を多項式とすると、$a_0 = 0$になるけど、これだと最高次の係数が非ゼロにならないな。特別扱いが必要になるか……」
割り算実行
ユーリ「そんで、お兄ちゃんが計算したかったのは《多項式の余り》なの?」
僕「そうなんだけど、そうじゃない。$x^2 + 1$という特定の多項式で割った余りを計算したかったんだ」
ユーリ「へー」
僕「具体的な話をしよう。さっき$7$を$3$で割って余りを$1$にしたように、 具体的な多項式を$x^2 + 1$で割ってみたい。たとえば、何がいいかな……たとえば、簡単な多項式で、 $$ x^3 + x^2 + x + 1 $$ を$x^2 + 1$で割ってみることにしよう」
多項式$x^3 + x^2 + x + 1$を多項式$x^2 + 1$で割り、余りを求めよ。
ユーリ「ちょっと待って。これってどーやって計算すんの?」
僕「$7$を$3$で割ったときと同じだよ。$7$から$3$の倍数を引いて、その結果が$0,1,2$に入るようにする。 それと同じように、$x^3 + x^2 + x + 1$から《$x^2 + 1$の倍数》を引くことになるね。 倍数といっても、数じゃなくて多項式だけど」
ユーリ「……」
僕「$x^2 + 1$は$2$次式だから、次数は$2$になる。だから、$x^3 + x^2 + x + 1$から《$x^2 + 1$の倍数》を引いて、 その結果が$1$次式になるようにしたいわけだね。余りは$Ax + B$という形になる」
ユーリ「さっぱりわかんない」
僕「それじゃ、多項式の割り算を筆算にして考えよう。そのほうがわかりやすいから。こんなふうに」
筆算の形にする。
ユーリ「あ、数の割り算と同じように筆算をするんだね」
この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)