NASA技術者の日常】ロスの休日〜石油と金と海と一杯のコーヒー〜

太陽が強く照りつける南カリフォルニアはロスで働く、日本人技術者の小野雅裕さん。
職場はNASAのジェット推進研究所! 日々最新の宇宙開発に携わりながら働く小野さんですが、彼の休日の過ごし方とは…?

週末でもラップトップを手に仕事をする、という小野さんが、今回は”理想的な仕事場”をご案内します!
どこのガイドブックにも書かれていない、ここだけの”ロスの休日の過ごし方”をお楽しみください。

週末の仕事場は海!

普段の週末の半分くらいは働いています。本業だけではなく、副業の書き仕事、たとえばこの連載の執筆も、週末の仕事です。

僕はなぜか、景色の良い場所で書き仕事をすると捗ります。論文でもプロポーザルでもエッセイでも小説でもそうです。

とりわけ海。なぜか海際で書くと、良い言葉が見つかります。海水には塩分だけではなく言葉も溶けているのではないかと思うほどです。世界中の海岸で色んな人が、人には言えない心の内を海に語りかけてきたからでしょうか。

だから、眺めが良く、青い海が望め、長時間落ち着いて座る場所があり、かつラップトップの電源に困らず、混みすぎず、高すぎず、カメラを首から下げた観光客でごった返してもおらず、そして休憩に一杯の美味しいコーヒーをすすれる場所が必要になります。

そんな場所はそうそうあるものではありません。ロサンゼルスに住んで3年、週末ごとにラップトップを車に積んで開拓して回った末に発見した、いくつかの理想的な仕事場を、紹介しようと思います。ガイドブックとは一味違ったロサンゼルス名所案内です!


ゲティ美術館

日本ではあまり知られていませんが、 実はロサンゼルスは石油産業によって発展した街です。20世紀初頭に近郊で次々と油田が発見され、世界の原油の4分の1を産出していた時期もありました。現在は高級住宅街のビバリーヒルズも、当時は油田街でした。

油は街に富をもたらし、富に惹かれて人が全米から集まり、そして華やかな社交界が生まれました。そんなロサンゼルスの社交界でプレイボーイとして鳴らしていた、ポール・ゲティという名の男がいました。遊び尽くして遊び飽きた後に、彼はアメリカ各地の石油産業に投資して成功し、戦後は中東の石油の権利を手にして巨万の富を築きました。彼が世界で初めてのビリオネア、つまり資産が$1 billion (1000億ドル)を超えた人だと言われています。

そのゲティが寄付した財産によって建てられたのが、ゲティ・センター (Getty Center)。とゲティ・ヴィラ (Getty Villa)という二つの美術館です。経費は莫大な基金の運用益で賄われているので入場は無料です。

Getty Villaの中庭

サンタモニカ近郊に建つGetty Centerは、中世から現代までの西洋画の傑作を多く収蔵し、年間1300万人もが訪れるアメリカ有数の美術館です。一方、マリブにあるGetty Villaは、ギリシャ・ローマ時代の貴重な美術品を多く収蔵しています。石油が、最終的には美術品に化けたわけです。

コレクションもさることながら、立地が素晴らしい。どちらも高台に建っていて、Getty Centerのサウス・パビリオンを出たところにあるポーチに出れば、ロサンゼルスのダウンタウンからサンタモニカの海岸まで一望に見渡すことができます。そしてマリブの海際の丘の上に立つGetty Villaのテラスからは、まるでエーゲ海やアドリア海のような青く清々しい海を眺めることができます。

そんな贅沢な借景を横目に見ながら、カフェのテーブルにラップトップを拡げて仕事をし、疲れたら美術品を見て回る。悪くない週末の過ごし方だと思いませんか?


海を見下ろすスターバックス

僕が最も気に入っている週末の仕事場は、Rancho Palos Verdesという海を見下ろす高級住宅街にあるスターバックスです。見てください、このロケーション!

ひと昔前は金持ちは海際に住みたがらなかったそうなのですが、現代ではロサンゼルス近郊の海を見下ろす崖の上は決まって豪邸が並んでいます。もはや石油王はいないかもしれません。街の産業が多角化した今、様々なビジネスで財をなした富豪が、こうして海を見下ろしながら優雅な暮らしをしているわけです。

Rancho Palos Verdesもそんな場所のひとつ。崖の下には広大な太平洋が広がり、夕方には真っ赤な太陽が海に沈みます。ここの近くには、松田聖子が結婚式を挙げたという、壁がすべてガラス張りのWayfarers Chapelという教会があったり(ちなみに設計したのはかのフランク・ロイド・ライトの息子)、最近世間を騒がせているドナルド・トランプの広大なゴルフ場があったりします。

このスターバックスに朝一番に陣取り、夕日が沈むまで書き仕事をするのが僕のお気に入りの休日の過ごし方です。疲れたらすぐ近くにある遊歩道を、崖に打ち付ける波の音を聞きながら散歩します。

パサデナの自宅から直線距離で約50キロ。ちょうど東京駅から茅ヶ崎くらいの距離です。ロサンゼルスのダウンタウンから南北に伸びる州間高速道路110号線を北の端から南の果てまで飛ばし、海沿いの道を走って、片道1時間のドライブ。スターバックスに行くためだけに片道1時間も走るなんて日本ではそうそうしないでしょうが、車中毒の街・ロサンゼルスに住んでいると何の抵抗もなくなってしまうから不思議です。

ガラスの教会、Wayfarers Chapel

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グリフィス天文台

天文台という名ではありますが、実際は一般市民向けの科学館です。そしてお察しの通り、大金持ちのグリフィスさんの寄付によって建てられたものです。ではグリフィスさんは何者かというと、19世紀後半の鉱山王。名前と苗字が同じで、グリフィス・グリフィスという、なんだかノビノビタみたいで滑稽な名前です。

このグリフィス天文台、ハリウッドの裏山にあって景色は抜群。有名な「Hollywood」の白い文字のサインがある山のすぐ隣です。ここの見晴らしのよい場所に、”The Café at the End of the Universe”という名のカフェがあります。(SFファンの方、何のパロディーか、お分かりですよね!)食べ物の味は非常に残念ではありますが、景色を眺めながらラップトップを広げるには最高の場所です。科学館自体も一般向けの宇宙の展示やプラネタリウムが充実していて、知的な休憩ができます。

夜は天文台のドームが一般開放され、望遠鏡をのぞかせてくれます。木星の縞や土星の輪もくっきりと見えます。そして夜景!眼下のハリウッドからロサンゼルスの平野を海まで一望する夜景の美しさは、夜空を飾る星々の美しさにも劣りません。だからロサンゼルスの定番デートスポットになっています。夜景や星空を見てロマンチックになるのは、日本もアメリカも同じなのですね!

現代のロサンゼルスはもちろん、もう石油の街ではありません。油田は既にほとんどが閉鎖されています。ですが、石油によって築かれた礎の上に、この街は現在も発展を続けています。何百万もの市井の人間の夢や、欲望や、成功や、失敗や、幸福や、不幸が、過去の億万長者が住んだ丘の上から見下ろす美しい夜景の中に、音もなく渦巻いているのです。

グリフィス天文台から見下ろすロサンゼルスの夜景


スペースシャトル!!

なんだか「NASA技術者の日常」というよりも、すっかりロサンゼルスの観光ガイドになってしまった感があるので、最後にもう一つだけ、ロサンゼルスに来たら絶対に外せない名所を紹介しましょう。

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宇宙人生—NASAで働く日本人技術者の挑戦

小野雅裕 /小山宙哉

世界で唯一、太陽系の全ての惑星に探査機を送り込んだ機関があります。それは、NASAのJPL(ジェット推進研究所)という組織。そんな宇宙探査の歴史を切り拓いたともいえるJPLで働く技術者・小野雅裕さんが目指すものとはーー。『宇宙兄弟』ス...もっと読む

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コメント

guriswest エンデバー、見たーい!φ(..)カリフォルニア・サイエンス・センター あと、Rancho Palos Verdesのスタ 3年以上前 replyretweetfavorite

ka_str 「”The Café at the End of the Universe”という名のカフェがあります」 3年以上前 replyretweetfavorite

Singulith >|宇宙人生――NASAで働く日本人技術者の挑戦  https://t.co/y9MULUWfEM 3年以上前 replyretweetfavorite