武田砂鉄
ZARD化に負けないで
90年代を代表するグループとして数多くのヒット曲を生み出したZARD。なかでも「負けないで」は発売から20年以上たった今でもマラソンやジョギングの定番曲として幅広い年代から支持されています。武田砂鉄さんは、そんな言わずと知れた名曲をマラソンの応援曲として素直に受け入れていいのか疑問だと言います。その理由とは? また、同じような文章になってしまうことを「ZARD化している」と表現するのは正しいのでしょうか。
具体的に走り抜ける歌ではない
毎年恒例の24時間マラソン、ゴール地点の日本武道館が近づいてきたタイミングで必ず歌われるのが、ZARDの「負けないで」だ。サビで繰り返される「負けないで もう少し 最後まで 走り抜けて」と歌う皆を観ながら、「会場からの励ましはランナーに届いているはず」と素直に思える大人になりかったのだが、どちらかというと、その後に続く「どんなに離れてても 心はそばにいるわ」との歌詞に着目して、えっ、もうすぐ武道館なのに、武道館にいる人たちが「どんなに離れてても」と歌うなんて何かの皮肉だろうか、と勘繰るような大人になった。
「負けないで」の歌詞の全編を確認すると、「走り抜けて」を補足する状況説明は無い。「〝今宵は私と一緒に躍りましょ〟」という歌詞もあるくらいで、実は走る歌ではないのだが、「最後まで 走り抜けて」のフレーズが繰り返されることで、マラソン関連の番組や企画には欠かせない楽曲になった。音楽情報誌『CD&DLでーた』が2014年に発表した「ジョギングやウォーキングをする時に聴きたい曲ランキング」でも、当然1位に輝いている。具体的に走り抜ける歌ではないのにもかかわらず。
定番曲にはならなかった可能性
13088
false
cakesの人気連載「ワダアキ考」、5人の書き下ろしを加えてついに書籍化!!
この連載について
武田砂鉄
365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む
著者プロフィール
ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社で主に時事問題・ノンフィクション本の編集に携わり、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。
Twitter:@takedasatetsu