「モモちゃん、何してんの? それ不倫じゃん」
スポンジボブのTシャツ、もう暖かい季節なのにニット帽、穴だらけのデニム。大きめの伊達眼鏡。
手にはいつもの一眼レフ。どこからどう見ても、ソレっぽい女が言う。
カメラ女子なんて言葉も古びた感もあるが、彼女はそのブームがやってくる以前から、ファインダーを覗いていたとしきりに言う。
「私のカメラは◯◯◯だよ」
いつも聞いている言葉だが、私はまったく興味のないことなので、うまく聞き取れない。
彼女の名前は、一ノ瀬しおり。高校時代からの友達だ。
女友達なんて、気を抜いて付き合っているから、私に女友達は少ない。しおりみたいに適当な人間じゃないと続かないからだ。たまに会って、お互い、自分のしたい話だけをして相手の話は聞き流し、美味しい食事とお酒を食べて飲む。
そして、話したことはすっかり忘れる。まったくもって、精神衛生上、健康な集まりだ。
今日はわざわざ、しおりの家まで来たのだが、彼女は直前まで寝ていたらしい。「ごめんね、何もないわ(笑)」と言われて、近くの居酒屋に来て、グラスワインと赤魚の煮付けを頼んで、風変わりな女子会がスタートしていた。
しおりと一緒にいると、予定通り進行することは何もない。でも、どんなエステティシャンでも提供できないような極上のリラックスタイムを提供してくれるのは、しおりだけだ。“モモちゃん”と呼んでくるのもしおりだけ。
だから、つい、気を許して先日の件を話してしまった。
そうしたら、珍しくしおりが私の話に食いついてきた。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。