本屋、キャンプ場、遊園地、工場……なぜ飯伏幸太はどこででもプロレスをするのか?

プロレスキャスター・三田佐代子さんの『プロレスという生き方』。前回に続き飯伏幸太選手を取り上げます。飯伏選手の代名詞になっている「路上プロレス」。本屋、キャンプ場、ショッピングモール、遊園地、工場と、飯伏がリングがない場所でもアクロバティックなプロレスを魅せる理由とは。

路上プロレスとは何か?

 飯伏幸太を語る上で欠かせないのが、「路上プロレス」という言葉である。かつて戦後の復興期にプロレスは「リングを輸送するトラック1台通れれば日本中どこへでも行く」と言われたが、路上プロレスにはリングすら要らない。飯伏がプロレスをしたいと思えばそこが会場になる。

 飯伏がデビュー4年目の2008年は、日本で初めて路上プロレスが行われた年になった。そもそもその年の初めにアメリカ遠征をした時に、大学の食堂に乗り込んでいって突然プロレスの試合をして異国の地で大喝采を浴び、その魅力にとりつかれた飯伏。帰国して、DDT代表の高木三四郎が初の著書を出したプロモーションとして、本屋の店先で「本屋プロレス」という路上プロレスが行われた。

 西武新宿線中井駅にほど近い、町なかの本屋さん「伊野尾書店」。そこで閉店後にコスチュームにエプロンをかけた高木三四郎と飯伏幸太が、プロレスの試合をした。狭い店内で始まった試合は、レジ台からダイビングフットスタンプ、宣伝用の看板にぶつける、などを経て外へ。安定感のない絵本塔によじ登ってムーンサルト、アスファルトに相手を叩きつけるジャーマンスープレックスホールド。飯伏幸太は生き生きと躍動していた。リングで行うのと同じ、美しいフォームで。

 この本屋プロレスが話題となり、さまざまな業態がDDTに会場を提供し始めるようになる。キャンプ場やショッピングモール、遊園地、工場。エスカレーターの手すりを駆け上がる飯伏、遊園地のスワンボートから池に向かってダイブする飯伏、工場でクレーンによじ登る飯伏にショベルカーで社長を生き埋めにする飯伏。たくさんの路上プロレスで飯伏幸太を見てきたが、そのどこでも彼は全てから解き放たれたように自由で、目を輝かせて桟橋やロッジの屋根の上を走り回っていた。

 ただ人と違う突飛なことをしたくて路上プロレスをやっているわけではなく、飯伏幸太の本意は別のところにある。

「できるだけプロレスをたくさんの人に見てほしいんですよ。路上プロレスはそのきっかけになるし、僕のプロレスはたぶん初めてプロレスを見る人にも向いている。究極の目標は渋谷のスクランブル交差点でプロレスをすることですね」

 華麗な空中殺法があって、人を驚かすことができる。見た目もゴツくないので怖がられない。そんな自分はプロレスを見たことがない人にでも抵抗なく受け止めてもらえる。子供の頃から「自分が何かをすることで、人が反応するのが好きだった」という飯伏は、プロレスラーとしての自分を客観的に見ることができていた。プロレスが地上波のゴールデンタイムで放送されている時代ではなく、自分のように子供の頃からプロレスごっこをしている世代も少ない。そんな今だからこそ、自分をきっかけにしてプロレスに興味を持ってほしい。彼の願いはそこにあった。

伝説のヨシヒコ戦
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プロレスという生き方

三田佐代子

能力や技術だけでなく、己の肉体と肉体、そして人生をぶつけあうのがプロレス。プロレスは幾度かの困難な時期を乗り越えて、いま新たな黄金時代を迎えています。馬場・猪木から時を経て、現在のプロレスラーは何を志し、何と戦っているのでしょうか。長...もっと読む

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g8OqPov8JT8ja1i プロレスを愛する気持ちはわかります。ただ、どこでも、誰にでもそういう事をやってもいいと。子供達に解釈されそうで怖いです。 きちんと、何故そのような事をしているのかを、その場で伝えて欲しいと思います。https://t.co/8ltzI5FBB8 約2年前 replyretweetfavorite

ataru_mix 伊野尾さんの店頭で撮られた荒い動画を見た時にはここまで大きな存在になるとは思っていなかった。 3年弱前 replyretweetfavorite

kow_yoshi 本屋プロレスは、当時生観戦を東伏見でのアイスホッケーの試合に全振りしていた自分に、プロレス観戦してみようと思わせる企画でした 3年弱前 replyretweetfavorite

345m 「プロレスという生き方」からcakesの飯伏編、第2回が公開されています。路上プロレスの美しいイラスト! #プロ生き 3年弱前 replyretweetfavorite