第157回 3を作って0にする(前編)

「足し算の表ができたなら、掛け算の表も作りたくなるよね」と僕はユーリに言う。「数を作る」第4章前編。
登場人物紹介
:数学が好きな高校生。
ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
$ \newcommand{\HIRANO}{\unicode[sans-serif,STIXGeneral]{x306E}} \newcommand{\LOOKSLIKE}{\quad\longleftrightarrow\quad} \newcommand{\TR}[1]{\langle#1\rangle} \newcommand{\XR}[1]{\bar{#1}} \newcommand{\MARK}[1]{\fbox{#1}} $

僕の部屋

いつものように従妹のユーリがやってきた。 の部屋に入ってくるなり、こんなことを言い出す。

ユーリ「いやー、こないだの話はおもしろかったよね」

「こないだの話って?」

ユーリ「ほらほら《三角形の整数》って作ったじゃん(第154回参照)。《ぐるぐるワン》の時計で足し算引き算」

「ああ、あの話か。そうだね。何だか小さな数の世界を作っているみたいで、確かに楽しいね」

  • $\TR0$は《$3$で割って余りが$0$》の整数全体の集合
  • $\TR1$は《$3$で割って余りが$1$》の整数全体の集合
  • $\TR2$は《$3$で割って余りが$2$》の整数全体の集合
《三角形の整数》

ユーリ「パターンも$9$通りしかないからめんどくさくないし」

《三角形の整数》の足し算
$$ \begin{align*} \TR0 + \TR0 &= \TR0 \\ \TR0 + \TR1 &= \TR1 \\ \TR0 + \TR2 &= \TR2 \\ \TR1 + \TR0 &= \TR1 \\ \TR1 + \TR1 &= \TR2 \\ \TR1 + \TR2 &= \TR0 \\ \TR2 + \TR0 &= \TR2 \\ \TR2 + \TR1 &= \TR0 \\ \TR2 + \TR2 &= \TR1 \\ \end{align*} $$

「そうだね。足し算の表もすぐできる」

ユーリ「足し算の表?」

「うん、《三角形の整数》っていうのは、要するに整数を$3$で割った余りだけを考えるわけだから、 出てくる数は$\TR0,\TR1,\TR2$の$3$個しかない。 だからこんな表が作れる」

《三角形の整数》の足し算の表

ユーリ「そーだけど、それって、式を並べたのと同じことじゃん?」

「同じだけど、この足し算の表を見ていると、アイディアが湧いてこない?」

ユーリ「アイディア……別に」

掛け算の表も作りたくならない? 計算自体はすぐできるよね」

《三角形の整数》の掛け算(書きかけ)
$$ \begin{align*} \TR0 \times \TR0 &= \TR0 \\ \TR0 \times \TR1 &= \TR0 \\ \TR0 \times \TR2 &= \TR0 \\ \TR1 \times \TR0 &= \TR0 \\ \TR1 \times \TR1 &= \TR1 \\ \TR1 \times \TR2 &= \cdots \\ \TR2 \times \TR0 &= \\ \TR2 \times \TR1 &= \\ \TR2 \times \TR2 &= \\ \end{align*} $$

ユーリ「ちょっ、ちょっと待ってよー。そんなにさっさか進まないでよ。掛け算の結果を$3$で割ればいーんでしょ?」

「そうだね。$3$で割った余りを考える。次の$\TR2 \times \TR0$は……」

ユーリ「だから待ってって! えーと、$\TR2 \times \TR0$っていうのは、$2 \times 0$を計算して、その結果の$0$を$3$で割った余り……って$0$だね」

$$ \TR2 \times \TR0 = \TR0 $$

「うん、それでいいよ」

ユーリ「それから、$\TR2 \times \TR1$は……まず、$2 \times 1 = 2$を計算して、$2$を$3$で割った余り……これは$2$になる。 最後の$\TR2 \times \TR2$は、$2\times 2 = 4$だから、$3$で割った余りは$1$になって、これで全部」

$$ \begin{align*} \TR2 \times \TR1 &= \TR2 && \text{$2\times1$を$3$で割った余りは$2$} \\ \TR2 \times \TR2 &= \TR1 && \text{$2\times2$を$3$で割った余りは$1$} \\ \end{align*} $$

「これで、$9$パターンができた」

《三角形の整数》の掛け算
$$ \begin{align*} \TR0 \times \TR0 &= \TR0 \\ \TR0 \times \TR1 &= \TR0 \\ \TR0 \times \TR2 &= \TR0 \\ \TR1 \times \TR0 &= \TR0 \\ \TR1 \times \TR1 &= \TR1 \\ \TR1 \times \TR2 &= \TR2 \\ \TR2 \times \TR0 &= \TR0 \\ \TR2 \times \TR1 &= \TR2 \\ \TR2 \times \TR2 &= \TR1 \\ \end{align*} $$

ユーリ「そんで、これを表にする?」

《三角形の整数》の掛け算の表

「そうだね。これが《三角形の整数》の世界での九九になるわけだ」

ユーリ「暗記が楽でいいにゃ……ところでお兄ちゃん。ほんとにこれでいーの?」

「いいよ。いまユーリが計算したじゃないか」

ユーリ「でも《三角形の整数》はたくさんの数の集合でできてた」

《三角形の整数》

「いまさらの話だけど、それがどうしたの?」

ユーリ「ユーリが計算したのは、このうち$0,1,2$って数だけじゃん? それで試しただけで、いーの?」

《三角形の整数》の掛け算でユーリが試したもの

「うん、いいんだよ。ユーリが気にしているのは、たとえば、$\TR2 \times \TR1$の結果を調べるのに、$2 \times 1$だけで考えていいのか、ってことだよね。 足し算のときも試したけれど(第154回参照)、 それでうまくいくんだ。というか、うまくいくように《三角形の整数》を作ったわけだけど」

$$ \begin{array}{ccccccccccccc} \underbrace{2}_{\in\TR2} &\times& \underbrace{1}_{\in\TR1} &=& \underbrace{3\times0 + 2}_{\in\TR2} \\ \vdots & & \vdots & & \vdots \\ \TR2 &\times& \TR1 &=& \TR2 \\ \end{array} $$

ユーリ「へー」

「たとえば、別の数で試してもいいよ。$2 \times 1$じゃなくて、$\TR2$から$5$を選んで、$\TR1$から$4$を選んでみようか。そうすると、$5 \times 4 = 20$で、$3$で割った余りはやっぱり$2$になる」

$$ \begin{array}{ccccccccccccc} \underbrace{5}_{\in\TR2} &\times& \underbrace{4}_{\in\TR1} &=& \underbrace{3\times6 + 2}_{\in\TR2} \\ \vdots & & \vdots & & \vdots \\ \TR2 &\times& \TR1 &=& \TR2 \\ \end{array} $$

ユーリ「おー。確かに、$20$は$\TR2$の要素になってる……うまく行くもんだねー」

《三角形の整数》の掛け算でいま使ったもの

「ここでやっぱり数式を使いたくなるなあ」

ユーリ「数式を使うって、どゆこと? いままでも数式使ってきたじゃん」

「いまユーリは、ほんとにうまくいくの? って気にしたよね。納得するために別の数で試したけど、無数の数すべてで試したわけじゃない。 だから、数式を使って《どんな場合でもうまくいく》ことを確かめたい。つまり、証明だよ」

ユーリ「証明……証明はいいんだけど、《うまくいく》ことの証明?」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに12巻も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

hyuki [7:00まで無料] 今回の読んでおくと、来週が楽しいですよー 4年弱前 replyretweetfavorite

chibio6 基礎がきちんと頭に入った感あり。来週が楽しみ。 4年弱前 replyretweetfavorite

LimgTW 普通の数学で感動するね。 ・具体例から試してから一般化 ・表記異なっても同じ数 ・乗算の逆演算から除算 式の意味?何それ美味しいの? 4年弱前 replyretweetfavorite