ディアナ・アグロンをつかまえて—秋元康の文学コンプレックス【第89回】

HKT48の「アインシュタインよりディアナ・アグロン」の歌詞が、女性蔑視だとして炎上しました。女子大が反対意見を表明したり、作詞した秋元康を批判したメディアが秋元側から告訴されたりと、事態は混迷を極めています。しかし、そもそもおニャン子クラブがブレイクした80年代から、秋元康は危うい隠喩を歌詞に込めてきた人でした。秋元康の作家性から今回の事件を読み解きます。

女性蔑視と大炎上した秋元康の歌詞

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) HKT48の歌詞が炎上してますね。

速水健朗(以下、速水) <女の子は 可愛くなきゃね 学生時代は おバカでいい>(「アインシュタインよりディアナ・アグロン」作詞:秋元康)ってやつか。

おぐら 歌い出しから<難しいことは何も考えない 頭空っぽでいい>と。

速水 うーん、炎上はやむなし感があるね。でもさ、この歌詞をおぐら君の好きな西野カナが歌っていれば問題なかったんじゃない? いまの西野カナだったらむしろみんな裏読みする。

おぐら 西野カナの歌詞は、たとえば「トリセツ」の<こんな私を選んでくれてどうもありがとう><ずっと大切にしてね>とか、一見、前時代的なようで、実は能動的なんですよ。

速水 この曲、女の子側から見た、関白宣言だって言われてたね。

おぐら 受け身かと思いきや、主体性はあって、意志を持って選ばれているという、矛盾と思えなくもないギリギリのところに巧妙さがあります。

速水 <新しい服も伸ばしている髪も すべては大切なあの人のため きれいでいたい きれいになりたい 女なら誰でも愛されていたい>ってのは、「OLの教祖」って呼ばれていた古内東子「かわいくなりたい」(1996年)。

おぐら <エステより恋を始めることで人は変われる>の部分は、女性誌のキャッチコピーっぽいですね。

速水 これは、男女雇用機会均等法から10年経って、バブルも弾けて不景気だからトラバーユ*1もできないし、どうせ出世も昇給もしないんなら、一般職で結婚目指した方がいいんじゃない? っていう。
*1 「仕事」を意味するフランス語。80年代にリクルートが『とらばーゆ』という名前の求人情報誌を創刊したことをきっかけに、「転職」の意で使われるようになった。

おぐら いまでも十分に通じる感覚ですよ。

速水 デフレ時代のJ-POP。

おぐら 例のHKT48のほうは、MVで未成年の少女たちがこの歌詞を歌っている生身の姿を見ると、やはり主体性は感じられなくて、歌わされている感のほうが強い。それに<女の子は 恋が仕事よ ママになるまで>って、この曲に限らない話ですが、そもそも恋愛禁止を公言しているグループに歌わせることの真意をどう読み取ればいいのか。それは、4月にデビューした欅坂46の第一弾シングル「サイレントマジョリティー」も同様で。

速水 <君は君らしく生きていく自由があるんだ 大人たちに支配されるな>(作詞:秋元康)か。こんな歌詞を恋愛が禁止されている10代の女の子たちに歌わせるって、完全にパラドックスじゃん。

おぐら 恋をして当たり前の女の子が、アイドルとして存在していることの両義性を狙っているんでしょうか。

速水 その辺が秋元康のメソッドのひとつなんだろうね。

おぐら あと、同じく秋元康の作詞で、アニメ『忍たま乱太郎』のエンディングテーマだった「0点チャンピオン」という曲があって、今回はその女の子版だっていう指摘もありました。<100点なんか 取らなくていい 大事なのは 女の子にもてることだよ>という歌詞です。

速水 なるほど、逆バージョンも秋元康はつくってるんだ。<お勉強ばかり がんばっても ダメなのさ 逆上がりができなくちゃ けっこう カッコ悪い>っていうのは、まさに男の子版の「アインシュタインよりディアナ・アグロン」だね。実際、ライターの堀越英美は、逆に子育ての現場だと、「男の子はおバカ、女の子はお利口」の教育が定着しているステレオタイプなんだって指摘しているのね*2。「11歳女子は新人OL、11歳男子はカブトムシだと思って育ててください」みたいなことをカリスマ男性塾講師が言っているとか。
*2 BLOGOS - 女の子はいつから「頭からっぽ」になってしまうのか ~ 「ピンク色の世界」に閉じ込めないために私たちができること - 堀越英美

おぐら 子ども時代には能力のほうが大事だって教わったのに、思春期の頃になると今度は容姿で判断される事態に遭遇して、結局、能力が大事なんて嘘じゃん、と。でもたしかに、中学生くらいまで男子はバカで、女子のほうが賢いっていうイメージありますね。それがいつの間にか逆転するのか。

速水 そのジレンマについて、秋元康が意識的かどうかは微妙だけど。

おぐら ちなみに、この歌詞を女性軽視だと批判したニュースサイトが、AKBの運営会社であるAKS 法務部から「名誉毀損及び侮辱罪が成立する」として削除要請のメールが届いたようです*3
*3 秋元康の歌詞を「女性蔑視」と批判したら、AKB運営から「名誉毀損及び侮辱罪」「記事を削除せよ」の恫喝メールが

速水 俺たちも、気をつけないとね。西野カナならOKで秋元康ならNGとかは、ちょっと差別的かも。あと、彼の容姿については、ノー言及ということで。

おニャン子クラブに込められた性的メタファー
この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
すべてのニュースは賞味期限切れである

おぐらりゅうじ /速水健朗

政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。この気鋭のふたりのライターが、世の中のニュースを好...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

LilySchrimp |すべてのニュースは賞味期限切れである|おぐらりゅうじ/速水健朗|cakes(ケイクス) https://t.co/N39FkVbOND 約1年前 replyretweetfavorite

NishinoM まあ、男なら叩いて、女なら憐れむというなら差別だよね… 「西野カナならOKで秋元康ならNGとかは、ちょっと差別的かも」 3年以上前 replyretweetfavorite

MisterTeeee 図書館がサードプレイスだったので思春期は好きな女の子とサリンジャーの話をしたりした。/ https://t.co/9SNofFI7Z4 3年以上前 replyretweetfavorite

SasakiTakahiro 文学少女の片思いみたいなところが、秋元康の世界の原点。 3年以上前 replyretweetfavorite