トイレ法反対派の3つの理由
いま、アメリカで「トイレ法(Bathroom Bill)」をめぐる激しい戦いが繰り広げられているのをご存知だろうか。
「トイレ法」とは、その名の通りトイレに関する法案だ。トランスジェンダー(心と身体で性のアイデンティティが一致しない人)の人が、「本人の性のアイデンティティに応じたトイレを使用する」ことに関する法律である。
LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)コミュニティは、トランスジェンダーが、自分の心の性アイデンティティに応じたトイレを使う権利を勝ち取るための運動を続けてきた。
ノースカロライナ州シャーロット市議会は、その要望に応じて、「本人の性のアイデンティティに応じたトイレを使用してもよい」という条例を今年2月に可決した。この「トイレ法」は、LGBTコミュニティにとっては大きな勝利だった。
ところが、その1ヶ月後に、共和党のマクローリー州知事が、シャーロット市の条例を覆して、「出産証明書に記載された性のトイレを使用する」ことを強要する法律を成立させたのである。
アメリカ南部には、マクローリー知事のように同性結婚や女性の選ぶ権利に強く反対する、宗教的な背景を持つ社会的保守派の共和党員がまだ多い。彼らはトランスジェンダーの「トイレ法」も、同性結婚と同様の問題とみなしている。
トランスジェンダーを差別するノースカロライナ州の「トイレ法」は全米から注目を集め、ブルース・スプリングスティーン、シンディ・ローパー、リンゴ・スター、などのアーティストやパイパル、ドイチュバンク、シルク・ドゥ・ソレイユといった企業がノースカロライナでの活動をボイコットし始めた。
早期からLGBTの権利を「公民権」としてとらえ、重視してきたオバマ政権の司法省も、5月9日にノースカロライナ州の差別的な「トイレ法」を公民権違反で州の連邦地裁に提訴した。
だが、共和党の社会的保守派は簡単には折れない。マクローリー知事のほうもオバマ政権の司法省を提訴し返した。
保守派が「出生証明書に記載された性のトイレを使う」ことを強要する主な言い分は次の3つだ。
①男性が女性のトイレに自由に入れるようになると、レイプなどの性犯罪が起こる。
②「自分は女だ」と言い訳して、性犯罪やイタズラ目的で女性トイレに侵入する男が出てくるだろう。
③トランスジェンダーは個人の選択にすぎない。(女性のアイデンティティを持つトランスジェンダーが)女装で男性トイレに入るのが嫌なら、女装しなければいい。
特に保守的でなくても、周囲にトランスジェンダーの知り合いがいなくて、この問題を考えたことがない人は、「なるほど危険だ」とうなずくかもしれない。だが、トランスジェンダーについて少しでも知れば、考えが変わる。
トランスジェンダーへの無知と偏見
私がトランスジェンダーのトイレ問題について初めて知ったのは、1987年のことだった。
日本語学校でコーディネーターをしていた私は、授業の合間に外国人の生徒たちとよくおしゃべりしていた。そのなかに、同国出身の女の子たちといつも一緒にいるフィリピン人の少年がいた。キュートで女の子っぽいけれど、男性だとわかる。 ある日、その少年が私のデスクに深刻な表情でやってきた。
「センセイ、私は女の子ですから、女の子のトイレに行きたいんです。でも、ほかの国の生徒が私は男だからダメだと言います。どうしたらいいんでしょう?」
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