妻にお願いした、たった1つのこと。
小学生のころ、母の笑顔が好きだった。しかし、次第に笑顔が少なくなった母は、私たちの前から姿を消した。そんな経験から、息子たちが笑顔でいるために、私自身が笑顔でいられるように、妻が笑顔でいられるように、生活することを心掛けた。いつも笑顔でいれば他人に好かれることが多く、私がいなくなっても息子たちは生きていけるとも思った。
親子で笑顔でいるために、妻には「はやく」と言わないようお願いした。せっかちだった母に「はやく」と言われながら育った私は、「はやくしなければならない」と子供ながらに焦り、結果的にうまくいかないことが少なくなかった。自信を持つことができず、自分が嫌になった。そんな思いを息子には味わわせたくない。そう思ったからだ。
でも、幼い子供がすることを「はやく」と言わないことは難しい。親がやってやれば数秒で終わることでも、子供にやらせると数分かかることがある。だからといって親がやってしまっては、親がいなくなったら生きてはいけない。失敗することがわかっていても、とりあえずは最後までやらせる。それがわが家の子育ての方針になっていった。
息子に教えてやるべきこと。
息子たちが成長するにつれ、生きていくうえで身につけてほしいことが増えてくる。しかし、多くのことを教えることは、お店の女の子たちと接していて難しいと実感している。場合によっては、お互いが笑顔ではいられなくなる。まずはこうしてほしいということを、私自身がやって見せた。やって見せれば、言葉で説明する必要はない。
かつて、「大人は言っていることとやっていることが違う」と不満に感じていた私は、あえて『言わない』ことを選んだ。
笑顔でいれば、困ったときには誰かが手を差し伸べてくれる。息子たちの周りに「手を差し伸べてくれる人」がいれば、私がいなくなっても息子たちは生きていける。
お店の女の子たちと接している中で、最も重要だと感じたのが『あいさつ』だった。「おはようございます」や「お疲れさまでした」は、ほとんどの女の子が言えるが、なぜか『ありがとう』と言える女の子は少ない。
「ありがとう」は他人を笑顔にさせ、人を味方につける不思議な力がある。息子たちが「ありがとう」と言えるように、息子たちの前では「ありがとう」を意識的に言うように心掛けた。もちろん、妻との間でも「ありがとう」は欠かさなかった。