ここは東京西新宿にある医療器具メーカー「ドブ板メディカル株式会社」。
陽太「すごいね、河合さん。河合さんの営業達成率、今期目標の400%だよ」
そう驚いたように言うのは、ドブメディ三年目営業の出来内陽太(デキナイヨウタ)です。陽太は提携先からの出向者、美女の河合さんにちょびっとフォーリンラブなのですが……
河合さん「そんなこと私にとっては当然でごわす」
陽太「ごわす!?」
いつもはクールな河合さんが、今日は明らかに何かがおかしいです。
陽太「今、河合さん、語尾にごわすってつけたよね!?」
河合さん「いや、つけてません。全然つけてません」
陽太「いやつけたよ! ……って、あれ?」
よく見てみると河合さんは、顔が赤くなんだかふらふらしています。
陽太「河合さん、なんだか顔赤いし……風邪ひいてない?」
河合さん「風邪なんてひいてませんし、火照ってなんかいませんし、その発言はセクハラですし、訴えて社会的に抹殺しますよ?」
陽太「僕、抹殺されるようなこと一言も言ってないよね? なに? この他人への気遣いが身を滅ぼす社会?」
河合さん「しかし……」
ふうと河合さんはため息をつきました。
河合さん「風邪かと言われれば風邪かもしれません」
陽太「僕、そう言ったよね……?」
河合さん「風邪をひいてしまうなんて、体調管理がなっていない証拠、社会人として失格です」
陽太「……いや、そこまで自分を追い込まなくても……。でももう金曜日だし、今日は早退して、週末ゆっくり休んで治しなよ」
そう言って、にこっと陽太は笑いました。
河合さん「そうですね……。お言葉に甘えるでごわす」
陽太「いま語尾にごわすってつけたよね!?」
河合さん「つけてません!」
そうして、河合さんはふらふらと早退していったのでした。
ここは麻布十番。
賢明な読者の方はとっくにお忘れかと思いますが、河合さんは外資系医療器具メーカーのウンタラサイエンティフィックからの出向者で、ぶっちゃけ高給取りでした。
オートロックのマンションの自室で、河合さんはベットにぼふっと横たわりました。
河合さん「風邪をひくなんて……一生の不覚……」
風邪でこんな高熱を出すなんて一体いつぶりだろう……。小学生ぶりかもしれない……。あの時はお母さんが看病してくれたっけ……。
そんなことを考えながら、河合さんはゆっくりとまどろみの中に落ちていったのでした……。
気が付くと河合さんは、ふわふわとした雲の上のようなところにいました。
河合さん「ここは……?」
見知らぬ場所に河合さんが困惑していると、誰かがそばに立っているのに気が付きました。
河合さん「ずんずん先生?」
それは会社のメンヘラ産業医、ずんずん先生でした。
ずんずん先生は社会人がかかるという謎の奇病・社会人病を専門としており、なぜかドブ板メディカルに常駐しておりました。
しかし、今日のずんずん先生はいつもと何かが違います。そう、コスチュームが違っていました。
いつもは白衣なのに、今日のずんずん先生はふわふわとした初夏の白い神様コーデ、バスローブを羽織ったような恰好でした。
河合さん「……ずんずん先生……。先生の趣味には特に何も言いませんが、その年でコスプレはちょっと……」
???「私はずんずん先生などではない。私の名前は『万能の神様』」
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