養老孟司は、なぜゲームをするのか
北川 これは僕の考えなんですけど、社会が最も正しい方向に進むのは、個人が本気で自分の幸せについて考えた時なんじゃないでしょうか。
茂木 それは大賛成。幸せとは何かを、もっと真剣に考えるべきだってことだよね。そこから日本の再生が始まると思うな。このあいだ、受験生の子をもつ「お受験ママ」3人とごはん食べてさ。
北川 どんな状況ですか(笑)。
茂木 受験競争ったって、結局は日本国内の話でしょう? もっと視野を広げて、学問の本当の楽しさに気づかせてあげてほしいと思って、おれがどんなに説明しても、「あらそうですか。でもうちの子は入試がんばらせまーす!」って感じだったんだよね。それはそれで、一つの道なんだけど、「お子さんは本当に幸せなんですか?」って思った。本当の幸せというものから目をそらして、自分を騙しているんじゃないかと思うんだ。
北川 そうなんですね。
茂木 自分の幸せから目を背けている限り、人間としてのふくよかさを取り戻すのは難しいよなあって。
北川 でも「あなたの幸せとはなんですか」って聞かれても答えられない人、考えたことがない人も多いかもしれませんね。「幸せ」と「本能」について僕はよく考えるのですが、最近思ったのは、「本能」を「幸せ」につなげるのは難しいことなんだな、ということです。例えば最近はギャンブル性や戦略性に関連する「楽しい」という本能を刺激するようなソーシャルゲームが流行っていますが、この本能はどこまで幸せにつながっているのだろう、と考えますね。
茂木 あー、それで思い出したんだけど、養老孟司さんってゲーマーなんだよ。
北川 えっ、そうなんですか。
茂木 うん。8年くらい前に泊まりがけの研究会に養老孟司さんを呼んで、夜まで一緒にしゃべってたんだ。そしたら、午前0時くらいに「じゃあ、僕は寝るよ」って養老さんが退出したんだよね。で、翌朝、朝食の会場に養老さんがいたから「よくお休みになれましたか」って聞いたら、「いやー茂木くん、あれから朝5時までゲームしてたから眠くて」って。そんな、ゲームするんだったらおれたちと話していればよかったのに。
北川 (笑)
茂木 それからしばらくゲームについて話す機会はなかったんだけど、去年の11月に小樽で一緒にセミナーをやって、その時にゲームについて聞いたんだ。そうしたら2つのことがわかった。ひとつは、養老さんがやるゲームはある特定の海外のストラテジーゲームだってこと。もうひとつが、ゲームをやる理由。養老さんの答えは、「そんなの暇つぶしに決まってんじゃん」だったんだ。他にやることがないときに、やるんだって。
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