『ちはやふる 上の句/下の句』は、百人一首の競技かるたという意外な題材を扱った人気まんがを、前後編にわけて映画化した作品である。新鮮なキャストと的確な構成・演出で、原作ファンのみにとどまらない支持を得ている、幅広い年齢層にアピールする青春映画と呼べるだろう。恋愛要素を抑え、スポーツ映画の爽快さや感動に軸を置いた構成も効果的である。
主人公は、進学した高校に競技かるた部を創設すべく奮闘する一年生の女子生徒、綾瀬千早。前編(上の句)では、創設に必要な規定部員数をどうにか勧誘した千早が、東京都大会へ向けて練習を開始する過程が描かれる。彼らは全国大会への出場をかけて試合に臨む。後編(下の句)は、次の大会へ向けて練習をおこなう彼らが、チームとしての一体感を作り上げるまでの紆余曲折が中心となる。さらには、全国トップの実力を持つ女子生徒、若宮詩暢が立ちはだかり、千早との激しい試合が展開される。主演は、『海街diary』(’15)で印象的な演技を見せた広瀬すず。強力なライバル、若宮詩暢役に松岡茉優。
映画全体を通して止むことのない、熱に浮かされたような感覚こそが本作最大の特徴である。10代ならではの、あるひとつの目標へがむしゃらに突き進んでいくエネルギーや、彼らが発散する熱。かるたが好きだ、という率直さも好ましい。こうした熱が、知らずのうちに観客へと伝染していくような勢いのある作品だ。年長者にはいくぶん気恥ずかしくなるようなストレートさも、劇場につめかける10代の観客にとってはリアルだろう。
試合の攻防がスリリングに描かれ、札を取るために伸ばす腕にアクション映画の如きダイナミズムが宿る。勝負が決まり、感極まった千早が泣きながらチームメイトの胸に飛び込む姿をスローモーションでとらえる、といった描写が決して陳腐にならない。それは広瀬すずのたぐいまれな輝きに負う部分も大きいが、原作の持つメッセージ性(「何かを本当に好きになる」「仲間と共に目標へ向かう」)を尊重し、冷笑的な描写を控え、テーマにまっすぐに取り組んだ姿勢も影響しているようにおもう。また、周囲との関係性やコミュニケーションを大切にする千早の描写も美しい。他者を拒絶して孤独にかるたと向き合ってきた最強のライバル若宮との対決はドラマティックな構図である。
おもうに青春映画には、少なからず自分の能力への「力試し」が含まれているのではないか。自分にはどのような力があるのか。いったいどこまで通用するのか。成長の過程にある少年少女は、能力の限界をまだ知らないがゆえに、それを試さずにはいられない*1。『ちはやふる』が描くのは、鍛錬によりしだいに力が高まっていく過程、強力なライバルと対峙した際の震えるような興奮である。彼らは、周囲との切磋琢磨を通じて、より高次の段階へたどり着こうともがく。自分は何でもできる。鍛えればより強くなり、どこまでも行ける! という、思春期ならではの高揚感。