第13回】亡き就活生のためのパヴァーヌ

12月に解禁された、新卒採用選考。その必需品であるリクルートスーツを買わなかったという岡田育さんも、就活生として、新卒採用の荒波に身を投じた一人でした。かつて就活をした「亡き就活生」にこそ読んでほしい一編です。

 リクルートスーツを買う奴はバカだ。

 昔からそう思っていた。就職活動の実態をまったく知らなかった頃からだ。もちろんリクルートスーツがどういうものか、どこで買えるのかすら知らなかった。トレンチコートとかフレアスカートとかブーツカットジーンズのように、リクルートという名称のスーツの「型」があるのだと、贈収賄事件が報じられたあの会社は、塹壕コートにおけるバーバリーやアクアスキュータムのような、あれら衣料の最大手ブランドだと思っていた、そんな子供の頃からだ。

 詳しいことは何も知らなかったが、毎日電車で通学しながら、リクルートスーツを着た20代前半の大人たちのことはよく観察していた。春の訪れと前後するようにうじゃうじゃと湧いてくる。田舎から出て来たのか、冬のうちは決死の形相で都心の路線図を凝視している。おぼこい。そして朝の満員電車で無理して日本経済新聞を読もうとするが、歴戦の企業戦士と違ってコンパクトな折り畳み方を知らない。邪魔くさい。午後になると大勢で同じ紙袋を抱えてホーム中央に吹きだまり、説明会がどうのこうのと大声で話している。やかましい。

 そうして桜の季節を過ぎた頃には、さらに結束力の高まった一個の集団が、よくよく見ると微妙に違うそれらリクルートスーツの胸元にお揃いの社員章をピカピカ付けて、さらに大声で研修が配属がどうのこうのとはしゃいでいる。みんな同じ顔に見えるが、どうやら彼らは冬場にうろついていた幼虫たちの一年先輩にあたる、サナギから羽化した新入社員というやつらしい。

 何年も着古したセーラー服を身にまとい、歩き慣れた通学路を行きながら、私は考えた。つまり彼ら幼虫の正体は、大人ではなく大学生だったというわけか。そして社会人になる前段階でありながら、誰に強制されるわけでもなく集団心理によって、揃いの社会人めいた制服を着ていたというわけだ。学校や軍隊やその他組織の制服とは、きちんと規格が定められているからこそ萌えるものだ。彼らがまとっているのは彼ら自身が編み出した単なる制服「っぽさ」に過ぎず、その中途半端さは萌える制服とは似て非なる、許されざるものであるなぁ。

 10代のオタクが一度は通る、歩き慣れた軍服萌えの路をまっすぐ進みながら、ファッションとして払い下げの軍用品をまとう連中に抱くのに似た憤りを、私は感じていた。

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ハジの多い人生

岡田育

趣味に対する熱量の高いツイートと時事に対する冷静な視点でのツイートを自在に繰り出すWEB系文化系女子okadaicこと岡田育。 普通に生きているつもりなのに「普通じゃない」と言われ、食うに困らず生きているのに「不幸な女(ひと)」と言わ...もっと読む

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コメント

ono_yasu タイトルがグッとくるよね。 2年以上前 replyretweetfavorite

show6volta 「天職を見つけるのは一生の課題だ。私も死ぬまでにはそんなものを発見してみたい。しかし定職を探すのは、それとは別問題なのだ」 2年以上前 replyretweetfavorite

pingpongdash 自分が学生の頃にこの文章を読んでいたらどんな就活をしただろう。-- 2年以上前 replyretweetfavorite

okadaic そうなんだよね。でも私は、ちょっと託してたかな。就職の面接、パンツスーツで行って「これで落とす会社はこちらから願い下げだ」と思っていた。入ってから不幸になるのは私だもの。落ちまくったが。https://t.co/VINoenNBMC https://t.co/Upu0eRarSr 3年弱前 replyretweetfavorite