木村多江を“薄幸”で済ませる緩慢

今回のワダアキ考は、NHKの連続テレビ小説『とと姉ちゃん』に主人公の母親役で出演する木村多江を取り上げます。「名脇役」として数々の映画、ドラマで活躍する彼女ですが、「薄幸」な佇まいがよく話題になることが少なくありません。そんな「薄幸」な「名脇役」というキーワードから、木村多江を読み解きます。

宮崎美子か市毛良枝か

映画やドラマのタイトルを並べ、「この作品で母親役を演じたのは宮崎美子か市毛良枝かを仕分けよ」とのテストを行う。100点満点を取れる人は極めて少ないだろう。「全て宮崎美子さんです」と答えて50点を取りに行くほうが安全かもしれない。敢えておぼろげになっている記憶を探し出し、ドラマ『のだめカンタービレ』の母親役は市毛良枝だったはず……と答えを確認したら宮崎美子だった。存在感が薄いわけではない。安定感が抜群すぎて、その配役について、考え込む時間すら与えずに定着していくのだ。

以前から指摘してきたのだが、「名脇役逝く」というニュースを数ヶ月に1度くらいのペースで聞く度に、名優と名脇役の境目を一体どこの誰が設定しているのかが気になり続けているし、その答えは見つかりそうもない。各局横並びで「名脇役逝く」である。日テレでは名優だったのに、フジでは名脇役だった、という実例などあるのだろうか。事務所発表のFAXで「弊社所属で、名脇役の、」と記すはずもない。名脇役を査定している人がいて、基準となるエクセルファイルを流出させているのかもしれないが、第三者が「メインではないけど上手かったですよね」と伝えるのって、なかなかのリスクがあると思う。

脇役と名脇役の違い

デジタル大辞泉では「脇役」を「映画・演劇などで、主役を助け、引き立たせる演技をする役」と記しているのに対し、「名脇役」を「映画やドラマ、舞台などで、主役を引き立てながらも、主役以上の存在感さえ感じさせる脇役」としている。つまり「名」がつくかどうかは、主役以上の存在感さえ感じさせるか否かにある。となると、宮崎美子や市毛良枝は名脇役ではなくなってしまう。しかし、誰もが彼女たちの演技に対して、(失礼ながらそのどちらだったか思い出せなかったりもするくせに)これは「名」がつく水準に違いないとの確信を共有している。

そもそも名脇役という呼称は、男性俳優を引き立たせる言葉として使われることが多い。能の主人公(シテ)の相手を「ワキ」と呼ぶ。脇役という言葉はこのワキに語源がある。ワキは、仮面をつけない男の役がなるが、その流れを汲んで名脇役には男性が多いのだろうか。いや、「主役以上の存在感さえ感じさせる」という「名」の定義まで、能の世界に準じているはずがないので、「名脇役」はあくまでも芸能界で通俗的に用いられている言葉にすぎない。

「“幸が薄い”女性を守りたいという本能」
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武田砂鉄

365日四六時中休むことなく流れ続けているテレビ。あまりにも日常に入り込みすぎて、さも当たり前のようになってしったテレビの世界。でも、ふとした瞬間に感じる違和感、「これって本当に当たり前なんだっけ?」。その違和感を問いただすのが今回ス...もっと読む

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