人間の本能が、合理的思考の邪魔をする
岡田斗司夫(以下、岡田) 前回は、人間は自分が運で成功したと認められないという話から、そもそも人間は本能的に因果関係でしか物事が理解できないという話に発展しましたね。
橘玲(以下、橘) もうちょっと正確に言うと、なにか重大なことが起きたときに、そこに原因がないとものすごく不安になる、ということです。人間は感情にしたがって行動しますから、一見論理的な思考をするときも快い感情を受ける方が優先されます。岡田さんもおっしゃっていましたが、物事が確率でしか決まらないという事実は人を不安にさせます。だから、無意識のうちに拒絶されてしまうのです。
岡田 ほう。
橘 人間は、あらゆることに因果論的な理由をつけるんです。日本にかぎらず世界じゅうどこでも、景気が悪いのは政治のせいだと言ってすぐに政権交代をしますし。昔なんか、日照りのときには王様の首を切っていましたからね。
岡田 ああ、『不愉快なことには理由がある』(集英社)でも書かれていましたね。古代の王様は案外殺されてるよ、という話。日照りという気象の問題を王様のせいにするのは無理矢理だろって、現代人は思ってしまいますけど、よく考えたら、不況は政権のせいと考えるのも結構こじつけですよね。だって、今の日本はどんどん首相が変わっているけど、ちっとも景気が良くならないですし。
橘 これだけ市場(グローバルマーケット)の規模が大きくなると、国家ができることは実はほとんどないんです。でもほとんどの人にとっては、その現実を認めることがものすごく不愉快なんです。みんな、景気と国家(政府)を因果関係で結びつける物語をで安心したいと思っている。
岡田 そう考えると、議会制民主主義で良かったですよね。統治者が変わらない仕組みだったら、21世紀を迎えた今でも、台風やら不景気のたびに、暴動が起きて統治者の首が切られていたかもしれないわけだ。
橘 たしかにそうですね。チャーチルが言うようにすべての政治制度は最悪ですが、そのなかでももっともマシなものとして、リベラル・デモクラシー(自由な社会と民主制)が選択されたのだと思います。文化大革命やポル・ポトの大虐殺でも明らかなように、暴力革命を起こしたり、暴動や内戦になったりしたらものすごい数の犠牲者が出てしまいます。
岡田 人間は本能的に生け贄システムから逃れられないけれど、その一番洗練された形として、リベラル・デモクラシーにたどりついた。
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