シーソーゲームでハラハラどきどきの展開だった大統領予備選だが、4月19日のニューヨーク州予備選で、生粋のニューヨークっ子であるトランプと、ニューヨーク州選出の上院議員を2期務めたヒラリーが圧勝し、ライバルらに決定的な打撃を与えた。
その1週間後のペンシルバニア、メリーランド、デラウェア、コネチカット、ロードアイランド州の予備選でも両者は好戦し、「推定候補者」(presumptive nominee)、つまりほぼ勝利が確定した最有力の候補者とみなされるようになった。
Primary Election Results 2016 - The New York Times
各党の「推定候補者」であるトランプとヒラリーが、党大会で正式に「指名候補」になるためには、これまでとは異なる「エンドゲーム」(大詰め)の戦略が必要になってくる。
これまでの予備選では、パターンが決まっていたが、今年はそう簡単にはいかない。まだまだ波乱に満ちている。
ハッシュタグでダイレクトに観測される世論
今回は民主党に絞って説明しよう。
つまり、推定候補者のヒラリーともはや見込み薄のサンダースの話だ。
まず、各州の選挙結果の予測を立てるとき、私は世論調査だけでなく、その州の人口動態統計(白人とマイノリティの割合)、産業、収入格差、失業率などを見る。それに加え、今回の予備選では、ツイッターやフェイスブック、大学生がよく使うYik Yakといったソーシャルメディアが貴重な情報を与えてくれた。
ソーシャルメディアを観察するときには、ちょっとしたコツがある。ヒラリー支援者は #ImWithHer (「彼女を信じている/同意する/支援する」という意味)、サンダース支援者は #FeelTheBern(名前の「Bernie」と燃える「Burn」をかけて、「バーニーの情熱を感じようぜ!」といった意味)を使う。
(#BernieSandersはネガティブに使われることは少ないが、#HillaryClintonは、サンダース支持者がヒラリーを批判するときに使われることが多いので、その目的でチェックする)。
ところが、ニューヨークでヒラリーが予想以上に好戦した後、#FeelTheBern に混じって、#FeelTheMath(数字を感じろ)というハッシュタグが目立つようになった。
ヒラリー支持者からサンダース支持者に向けた「数の現実を知れ」という揶揄だ。それには次のような背景がある。
最近になって、「ヒラリーは(黒人が多い)南部の州だけ勝っている」、「(自分の支持層である)貧乏人は投票しないから」、「(自分の票田である)無所属が投票できない『クローズド・システム』は問題だ」、といったサンダースの言い訳が目立つようになった。
火に油を注いだのが、サンダースの熱心な支持者である俳優のティム・ロビンスだ。(サンダース有利の)出口調査と(ヒラリー勝利の)実際の結果との差を指摘し、民主党による組織的な不正操作を示唆する次の内容のツイートをしたのだ(現在は消えている)。
だが、ヒラリーは南部以外でも勝っているし、低所得層はヒラリーに投票する傾向があるし、ニューヨークの『クローズド・システム』は「投票を民主化する」ために100年以上前に作られた法律だ。サンダースは、自分にとって有利だが民主的とは決して言えない「コーカス」を含めた予備選の欠陥を承知のうえで、「民主党の候補」として予備選に加わったはずだ。
ワシントンポスト紙やビジネスインサイダー紙なども、ティム・ロビンスの言いがかりを批判している。
しかし、熱心なサンダース支持者たちは、ネット上で「負けているのはエスタブリッシュメントとヒラリーが票を盗んでいるから」、「不正操作」といった陰謀説を広め、サンダース陣営が「狭い道のりだが勝算はある」と主張し続けるので、支持者も「まだ勝てる」信じている。
こういったことにうんざりしたヒラリー支持者が「計算上サンダースはもう勝ち目がないのだから、言い訳はやめて、諦めなさい」と呼びかけているのが #FeelTheMathなのだ。
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