男子くん 女子ちゃん、もう来るかな
俳句先輩 例の”彼女”だね
男子くん 大学の同級生ですよ。たまたま会社が近くて、駅の南口にあるんです
俳句先輩 あの春日傘をさしてくる子かな
男子くん たぶんそう・・・。あ、女子ちゃん!
女子ちゃん 男子くん、お久しぶり。お隣の方は?
男子くん 同じ部署の先輩(てか、なんでこの人ついて来たんだっけ?)
俳句先輩 こんにちは
女子ちゃん はじめまして
男子くん とりあえず、オーダーしようか
女子ちゃん 和食のオープンカフェって珍しいよね~。すごくおいしそう!
男子くん、気合いの店選びが功を奏しましたね。確かに春の旬が満載で、充実したランチができそうだ。ついて来てよかった!
女子ちゃん テーブルに生花を飾ってるんだね。スイートピーがきれい
男子くん スイートピーか
女子くん 花びらが揺れてる・・・
(そこにやわらかな春風が吹き抜ける)
男子くん あ、ナプキンが飛んじゃうよ
俳句先輩 風光る・・・
女子ちゃん えっ、風、光る・・・? はじめて聞きました
男子くん (出たぁ~! たぶん季語! それは季語!)あ、それ、先輩のクセで・・・
女子ちゃん 素敵です! 今、先輩が考えられたんですか?
男子くん (え~、まさかの展開)
風は本来吹くもので、光るものではありません。しかし、春の晴れた日、花や木々を揺らし、街やビルの谷間をやわらかく吹き抜けていく風が、まるで光っているように感じることがあります。その輝きは、風にゆらぐ風景そのものをまばゆく、明るくさせます。もちろん、人の心も。
そう、風光る風景は、実に美しい。が、男子くんは、食事に夢中のようです。
男子くん うまい! でもこれなんだ?
女子ちゃん 木の芽和えだね
男子くん じゃあこっちは?
女子ちゃん それは青ぬた。お酒のあてにもいいのよね~
男子くん へぇ~女子ちゃん、よく知ってるね!
俳句先輩 桜貝・・・
男子くん え、貝? 貝なんてどこにも・・・
俳句先輩 春らしいネイルの色ですね
女子ちゃん ありがとうございます! 昨日、新しい色にしたんです
つやつやとしたきれいな貝が十枚、テーブルにちりばめられているのかと思いました。砂浜に打ち上げられたさまが、桜の花が散っているようで美しいことから、桜貝と呼ばれるようになったのでしょう。これも春の季語なんです。
女子ちゃん 桜貝かあ・・・素敵な表現をなさるんですね
男子くん 先輩はね、暦とともに生きている人なんだ
女子ちゃん 暦と・・・。あ、昼休みあっという間!いかなきゃ!
男子くん またランチしようよ
女子ちゃん ぜひぜひ!
男子くん 今度は・・・
女子ちゃん ぜひまた先輩もご一緒に! じゃ!
男子くん いっちゃった・・・
俳句先輩 「鳥帰る」だね。越冬した渡り鳥は、春になると北方に帰っていく・・・
男子くん また鳥ですかっ!
==つづく==
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