…で、それで…何が「で、それで」なのか自分でもよくわからないが、僕はライブを目標に弾き語りの練習を始めることにした。
練習方法はジャッキー・チェンから教わった。
ある時テレビを観ていたら、「どうしたらカンフーアクションが出来るようになるのですか?」とのインタビュアーの愚問に対し、ジャッキー・スマイルを維持したまま彼が「トレーニング、トレーニング、トレーニング」とシンプルに答えたものだ。
ブルース・リーとジャッキー・チェンの言う事に間違いはないと信じて少年期を過ごした世代である。親や教師よりヌンチャクや酔拳の出来る大人の言葉が重要だった。40代になっても恥ずかしくなるくらいにそれは変わらない。
とにかく練習することだとジャッキー・チェンが言っているのだ。
朝、目覚めたらまず近所のスタジオに電話を入れる。
「すいません、本日当日予約で1名リハ入れる時間ありますか?」
「はい、×時から×時までなら」
「では×時から1時間で、シールド2本マイク1本レンタルお願いします」
「はい、では会員番号とお名前お願いします…ってオーケンさんですよね?」
電話の向こうで若い女性店員が僕に尋ねた。
このところほぼ毎日個人練習に入っているので、もう予約の電話の声で僕からだとわかるのだ。
スタジオはアマチュアバンドが使うようないわゆる“町スタ”である。町スタは当日に予約するとグッと料金が安くなる。それを待っての早朝予約なのである。いやいや、節約は重要なことである。とても重要なことである。僕は初心者なのである。