「ワイングラスのむこう側」「キラキラOL浅井美沙」書籍化記念対談!
菅沙絵(以下、沙絵) もともと私、林さんの連載を愛読していたんですよ。
林伸次(以下、林) え、そうなんですね。やったあ(笑)。
沙絵 だから今回同時に書籍化ということで対談させていただいてすごくありがたいなって。
林 僕も拝読させてもらったんですよ。率直に、うわー会社勤めって大変だなあって(笑)。これ、主人公の美沙は沙絵さんの実体験を元に書いていると思っていいんですか?
沙絵 基本的にはそうですね。私はOLをしながら書いているので、どの業界なのか伏せるようにしてますけど。
林 本に書かれているみたいな、ガンガン営業をやっている人や、社内の政治とかが本当にあるんですよね。
沙絵 そうですね、かなり脚色して書いてはいますが、だいたいこんな感じです(笑)。
林 僕は組織とか社内政治とかが一番苦手で、そういうことをしたくないからバーの仕事をやってるんですね。それこそバイトだって雇わないくらい一人でやりたい。だから、そもそもそういうのって嫌にならないのかなって聞いてみたかったんですが……?
沙絵 うーん、自分でいうのも変なんですが、多分私は協調性がすごくあるタイプなんだと思います。誰かと一緒に仕事をするほうが好きというか。だから逆に林さんみたいに一人でやるみたいなことほうが、勇気がわかないです。
林 この本にはそれほど書かれていなかったですけど、女性のコミュニティ問題ってあるじゃないですか。うちのお客さんでもそれに悩まれている人多いんですが、沙絵さんて、こんなこと言ってはなんですが、とてもおきれいですよね。きれいな人って目立ったりして、嫌な思いしたりとかって、すごく聞くんですけど、そういうこともないですか?
沙絵 いやいや(笑)。でも私の会社にはないですね。良くも悪くもみんな仲良くてのんびりしているというか。友達のOLの子に聞くとそういう話もよく聞くので、社風っていうのが大きいんだと思いますね。
林 ああ、会社の社風ってありますよね。こないだ記事にも書いたんですけど、業界によって人柄が全然違うっていうこともありますし。
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『シャーロック・ホームズ』は副業で生まれた?
沙絵 今回、対談できることになって聞きたかったのが、「天職」についてなんです。林さんて、バーが天職だと思ってらっしゃいますか?
林 あー、天職だねってよく言われるんですよ。でも、僕自身はそう思ってなくて、向いてるかなあくらいじゃないですかね。接客とかそこそこ感じがいいし(笑)。距離感もほど良くなるように意識してるんですね。わーっと寄り過ぎたりしないし。そういう意味では天職なのかなと思うんですけど。
沙絵 距離感って大事ですよね。
林 ただ、僕は結果的にこの道を選んだだけなんですね。一日デスクに座ってパソコンで作業なんてできないし、エクセルとか数字見るの苦手だし、営業とかもちょっと……ってなった時に残ったのが接客だった。本当はカフェとかもやりたかったんですけど、妻と子どももいたので、単価のいいお酒のお店にしたっていう。
沙絵 でもそれでバーで働いて20年以上ですよね。今になって天職だったって感じることはないですか?
林 僕、実はこの天職問題って大好きなんです(笑)。この話をするときにいつも出すのが、コナン・ドイルの話でして。彼は『シャーロック・ホームズ』を書いた世界的推理小説作家ですけど、自分の天職を推理小説家だとは思っていなかったんですね。彼は実は『ホームズ』の他にスピリチュアルの研究本もいっぱい出していて、自分が生まれてきたのはスピリチュアルな考えを広めるためだと思っていたらしいんですね。
沙絵 そうだったんだ……。
林 シャーロック・ホームズは、副業で書いたら受けちゃったから仕方なく続けていただけで。でも現代にコナン・ドイルのスピリチュアル本ってあんまり残ってないですよね。シャーロック・ホームズは23世紀になっても残り続けると思いますが。
逆に、沙絵さんはOLとして仕事をしているのに、なんで小説を書こうと思ったんですか?
沙絵 さっきもお話しましたけど、すごく会社の雰囲気がよくて居心地がいいんですね。女の子同士も仲良くて。でもその分、この仕事をずっとやっていこう、みたいなこだわりがないんです。もちろん私もそんな感じだったんですけど、自分の中でそのことにもやもやした気持ちもあって。
林 これでいいのか、と。
沙絵 はい。そんな時に上司にこの小説のもとになった横山信弘さんの本を教えてもらったんです。
林 なるほど。
沙絵 仕事って、モチベーションに左右されがちじゃないですか。でもその本には「モチベーションは関係ない」って書いてあって。最初は意味がわからなかったんですけど……。
林 モチベーションの話は沙絵さんの本にも書かれていましたけど、あーそのとおりだなあと思いました。「思い描いていればうまくいく」みたいなことって絶対違うと思っていて。それよりも、目の前にあることを誠実にこなしていったほうが、仕事も人間関係もうまくいきますよね。
沙絵 要はモチベーションでやっても息が続かないと、当たり前にできるその「当たり前」のレベルを上げるべきだっていう話で。そうしたら仕事で嫌なことが減っていって。なんか喝を入れられた気持ちになったんです。
林 で、この考え方が面白いと思って小説にしたいと思ったんですか?
沙絵 もともとは全然違う話を書いて出版社さんに持ち込んでいたんですけど、全然企画が通らなくて。その時編集者さんに「影響を受けた人はだれですか?」って聞かれて、横山さんの名前を出したんですね。そしたら会ってみようよ、という話になりびっくりして。
林 あれよあれよという間に。
沙絵 それでお会いできることになって、直接「横山さんの本を元に小説を書かせてください!」ってお願いしたら、ぜひって言ってくださったんです。
小説はどこから物語が生まれるのか?
林 じゃあ初めに持って行った小説とは全く違う話を書いたんですね。
沙絵 そうですね。ぜんぜん違う話です。
林 それはすごい。ちなみに、『もしドラ』って読みました?
沙絵 あ、はい。読みました。
林 僕、あれを読んだ時に、これはどういう順番で話を作るのかなって思ったんですね。物語にドラッカーをはめたのか、ドラッカーの思想に合わせて物語を作ったのか。それとも作者が自分の体験とか全く別のことを書こうとして、その要素としてドラッカーや物語をはめたのか。沙絵さんの会社ってのんびりしていて、沙絵さん自身もそんなにがんばるタイプの人ではなかったんですよね。
沙絵 そうですね。会社はたしかにのんびりしてたんですけど、横山さんの本を読んで自分が変われたっていう実感を書きたかったのかもしれないですね。
林 じゃあそういうのんびりした環境に堺さん*1みたいな人が入ってきたらどうなるだろう、っていうのが発想の始まりですか?
*1 主人公・浅井美沙の部署に突然配属されてきた営業部長。彼と出会うことで美沙の運命が変わっていく。
沙絵 そうですね、堺は横山さんみたいな人をイメージしました。美沙も自分を通して書いた部分が大きいので。他の登場人物はそれほどモデルにした人はいないんですが、この二人だけは自分の中から出てきた感じです。
林 次書きたいと思っているものってありますか?
沙絵 次は恋愛系をやりたいなと思っていて。『結婚できない2.0』っていう、多分この対談と同じ日にcakesでスタートしていると思います。
林 すごいテーマですねそれ(笑)。
沙絵 もっと結婚の形って自由でいいんじゃないかって思うんですよね。ちょうど林さんがcakesで書かれていましたけど、ほんとうにそれが窮屈に感じる時が多くて。例えば、女性が結婚したい理由って、子供を産みたいってのがあるじゃないですか。そういう時、シングルマザーであってもいいし、昔からの日本人の結婚観じゃなくてもいいと。結婚の形のせいで息苦しく感じている人たちが、少しでも楽になれるようなものをやりたいんです。
林 ああ、させてますよね。例えばお医者さんのドラマが流行るとお医者さんになりたい人がばっと増えますよね。そんな感じで沙絵さんの作品がヒットしたら「結婚しなくてもいいじゃん」「シングルマザーでもいいじゃん!」って人たちが増えて、社会が変わるかもしれませんよね。
沙絵 そこまではわからないですが(笑)。でも少しでも変えられたら素敵ですよね。
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