男色のために城を乗っ取られた美少年!? 戦国大名同士の恋【後篇】

「鬼義重」とその武勇をたたえられた常陸の大名、佐竹義重は、戦場でこともあろうに敵方の大名に一目ぼれしてしまう。しかし、花には棘の世の習い、義重が恋した若武者、蘆名盛隆はあまりに危険な男だった。
劉邦の宦官』や『九度山秘録』で話題の、新進気鋭の歴史小説家・黒澤はゆまが、歴史のなかの美少年を追って世界中を飛び回る人気コラム!

戦陣で燃え上がる恋

「鬼義重」とあだ名された無骨な大名、佐竹義重が恋した相手は、よりにも寄って戦場で出会った敵方の大名、蘆名盛隆でした。

二階堂家から養子として蘆名家に入った盛隆が、養父盛氏の実子盛興が早世したため、図らずもあとを継いだのは14歳のとき。水の滴るような美少年として有名でした。

義重と盛隆は14歳、年の差がありました。対戦したときは、義重は男として気力・体力ともに最も充溢した30代、盛隆は花の盛りの10代半ばだったはずです。

邂逅以来、義重は寝ても覚めても「盛隆」「盛隆」そればかり。

軍議の席も夢現で、いつもなら家臣の献策にするどく質問や指摘をし、時には自分で目の覚めるような提案もする義重が、夢中に蝶を追うような呆けた顔をしています。

家臣たちもいぶかしく思い、目配せしながら、ひそひそと(お館様はどうしてしまわれたのだ?)とささやきあいました。

しかし、戦陣に立つとそこはさすがに「坂東太郎」と呼ばれた猛将。突撃前の武者震いもそのままに、八文字長義という名刀をふるって敵をたたき伏せ、鬼も顔ふす胴声で味方を鼓舞します。ただ、敵の前衛を崩し旗本同士が接触するほど敵中深く攻め入ると、決まって鋭鋒はにぶり、まぶしそうな目で遠く敵方をみやってから、引き返すのです。

江戸時代になってから、古老が「怖くて怖くてとてもその顔を仰ぎ見れるものではなかった」と証言した主君の見る方を、家来が恐る恐る追っていくと、決まってそこにはぬばたまの黒髪をなびかせた、美々しい若武者の姿がありました。

家来衆の不審をよそに、思いつめた義重はあるとき、思いのたけをこめた文を、忍びを使ってひそかに盛隆に送りつけました。

返事はなかったのですが、次の日、戦場でこちらを見返してくる若者のまなざしは熱を帯び、意味深なものになっています。

脈ありと見た義重はさらに情熱をこめた手紙を送ります。

こうして、なしのつぶての文を送ることが続いた何度目かの夜、ついに若武者からの返書が義重のもとに届きました。

そこには、義重の戦場で見せる勇気への憧憬、自分への真実の情けを知りながら立場ゆえ答えることの出来ない悲しみと悔しさが纏綿とつづられていました。

以後、佐竹義重と蘆名盛隆、2人の戦国大名は、昼は熱く戦い、夜は熱く文を交わすという不思議な関係になりました。

やがて、2人のひそかな懊悩に、両家の重臣が気づきました。彼らは内密に相談したうえで、講和してはどうかとお互いの主君に提案します。

もちろん2人に否やはありません。

早速、めでたい和睦の宴が催されました。綺羅星のごとく、佐竹・蘆名のつわものたちが居並ぶなか、義重、盛隆の2人の主君も左右に並んでひな壇に座ります。

「この傷は君につけられたのだぞ」

「あぁ、あのとき真っ先に逆茂木にとりついたのはあなたでしたか。それを言うなら、私の額の傷こそあなたがつけた傷ですよ」

むくつけき武士たちが互いの勇気をやんやと褒め称えあうなか、眉太く陽に焼けた壮年の猛将と、大きな瞳と紅い唇の美少年は、静かに杯を酌み交わしあっていました。

やがて、酔いつぶれた態をして、1人また1人と家臣たちが場を去り、いつしか原野に陣幕を張り巡らしただけの宴の席は、義重と盛隆2人だけになっていました。陣幕の灯りはしばらく燃え続けていましたが、やがて消え、時が止まったような暗闇に辺りは包まれました。

それから、鬼と呼ばれた男と花も妬むとうたわれた少年の間で何があったかは、2人だけが知っていることでした。

男色のせいで城を乗っ取られる!?
この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載が本になります!英雄と美少年の物語をこちらからどうぞ

なぜ闘う男は少年が好きなのか

黒澤 はゆま
ベストセラーズ
2017-03-18

この連載について

初回を読む
なぜ闘う男は少年が好きなのか?

黒澤はゆま

洋の東西を問わず、戦乱の時代に決まって栄えた<少年愛>。死を賭して戦う英雄の側近くに控える、あるいは金髪の、あるいはブラウンの、あるいは黒髪の少年たち――。戦士は少年に何を求め、少年は戦士に何を答えたのか。時に英雄を生むこともあった、...もっと読む

この連載の人気記事

関連キーワード

コメント

chang_frog 美少年なら仕方ないw→ 8ヶ月前 replyretweetfavorite

inco_ch @n_o_w_a90 先程のエピソード https://t.co/dppnJdQZda これですね。 あの時代はホモセクシャルは生きやすかったでしょうね。 いつからタブーになったんでしょうね?文明開化で欧米化してからなんでしょうか。 宮本武蔵いいですねー。 9ヶ月前 replyretweetfavorite

vivid_DC @vivid_DC https://t.co/avYrH64Ky5 楽しいから暇な方いたら読んでみてください(勝手にakamに置き換えて妄想してる) 約3年前 replyretweetfavorite

Mint_Comet @lvjls4vr あと蘆名盛隆の男遍歴。「無双の美少年」ってすごいね、無双。全部既出かな? https://t.co/FN0Gr7JumC 3年以上前 replyretweetfavorite