ここは東京、西新宿。
瑠雨図(ルウズ)さん「いけない~! 遅刻遅刻~!」
医療器具メーカー「ドブ板メディカル株式会社」の、ちょっと時間にルーズな瑠雨図さんは、今日も始業時間ぎりぎりに出社してきました。
斑切(ブチキレ)部長「遅いぞ! 瑠雨図!」
と、そんな瑠雨図さんの姿を見てブチ切れているのは、監査部の斑切(ブチキレ)部長です。
瑠雨図さん「はぁ~すいません~」
そう言いながらも、瑠雨図さんは心のなかでは舌打ちをしていました。瑠雨図さんは最近営業部の事務からこの監査部に異動してきたのですが、この斑切部長がすぐブチ切れるのが嫌すぎて、
早いとこ結婚して仕事辞めたいな
と考えていました。
はあ……斑切部長のせいで、毎日会社に来てもすべてが灰色に見える……
そう思っていた瑠雨図さんですが、今日は何かが違いました。斑切部長のそばに、ひとりのイケメンが立っていたのです。彼はすらりと背が高く、ネイビーのスーツがよく似合っています。
知的な銀縁眼鏡の奥にある、これまた聡明そうな瞳と、瑠雨図さんの目が合いました。
ズボリっ
とその瞬間、瑠雨図さんは、自分のハートに矢が刺さるのを感じました。
瑠雨図さん「あ、あ、あの……部長、このイケメン、いやこの方は?」
斑切部長「ああ、ピンチヒッターの路地(ロジ)くんだ」
路地さん「はじめまして、よろしくお願いします」
そう言って路地さんは二コリと笑いました。
ズボリっ
そのクールな印象とはうらはらのキュートな笑顔に、瑠雨図さんは、ハートにもう一発矢が刺さるのを感じました。
斑切部長「路地くんはフルタ監査法人から来てもらった会計士さんだ。わが社の内部統制の品質向上プロジェクトのために、これから半年間常駐してもらう」
会計士!
若い!
イケメン!!!
見つけた! 私の!!
フェイバリットダーリン!!!
ドブ板メディカルに勤めて3年、瑠雨図さんは初めて、社内の男性に対して自分の目がハートになるのを感じたのでした……。
それからしばらくしてのことです。
路地さん「なんでこんな資料を集めたんですか?」
瑠雨図さん「え……それは……えっと」
路地さん「そもそもこの資料を集めてもらった意味を分かっていますか?」
瑠雨図さん「え……はあ……」
監査部では、路地さんに激ツメされている瑠雨図さんの姿がありました。
うまく答えられない瑠雨図さんの姿を見ると、路地さんは深いため息をつきました。
路地さん「もういいです。あとは僕がやりますんで」
瑠雨図さん「はあ……」
私なりにがんばったんだけど……。なんかすごい怒られて、しまいにはあきれられたような……。
しょんぼりとして、瑠雨図さんは席に戻りました。
やっぱり私、仕事できないのかな……。
瑠雨図さんがどんよりと落ちこんでいると、斑切部長と路地さんが話しているのが聞こえてきました。
路地さん「ちょっとこれは僕の方でやりなおしますんで……しかし瑠雨図さんって……」
ちらりと路地さんが自分の方を見たような気がしました。
路地さん「すぐ落ちこむから使いにくいですね」
瑠雨図さん「!!!!!」
ぼそりとした路地さんのつぶやきが、瑠雨図さんの耳に届いたのでした。
瑠雨図さん「うわああああああん!!!」
その日のお昼休み、号泣しながら廊下を全力疾走する瑠雨図さんの姿がありました。
瑠雨図さん「ずんずん先生!」
ずんずん先生「うぉう!?」
瑠雨図さんがバーン!と医務室のドアを開けると、ずんずん先生の姿がありました。