男子くん へぇっくしょん!
俳句先輩 おや、どうしました? 男子くん
男子くん 先輩が昨日、もう春だというから炬燵をかたづけたんですよ。そしたら・・・へぇっくしょん!
俳句先輩 わたしはまだ炬燵を出していますよ
男子くん え? なんで? 先輩は、暦とともに生きているって言ったじゃないですか!
俳句先輩 生きていますよ。だから
男子くん なんすか、それ??
「もう炬燵かたづけようか?」「3月とはいえ、まだ寒くなるかもしれないよ」「そうだよね、雪が降ったこともあった」「しばらく出したままにしておこうよ」。
春が訪れる頃、このような会話が日本中のあちこちで交わされていると思います。
梅が春を告げ、暖かくのどかな春の風が吹いたかと思いきや、冷たい北寄りの風が吹き返し、真冬に逆戻り。寒の戻りなどといいますね。「寒い日がまだあるかも」と、春になってもしまいかね、置かれたままになっている炬燵のことを示す季語が、春炬燵です。
ちなみに、寒の戻りを表わす言葉に、
男子くん 炬燵って冬のイメージですよね。それにわざわざ春をつけるなんて。細かっ!
俳句先輩 季節の繊細な感覚や実感を端的に示しているのが、季語なのですよ
日本の季節の素晴らしさは、なんといっても四季です。しかし、春夏秋冬は「はい、今日から春になりました」「夏は終了です」というふうに、定規で線を引くようにきっちりと変化していくものではありません。
かならず、季節の境目というものがあります。その境目を日本人は古来より肌感覚でとらえていて、微妙な季節の変化を言葉で表現してきたのです。
俳句先輩 ところで男子くん、風邪はひどいのかい? 熱は?
男子くん えっと熱は・・・
俳句先輩 し、しまった、わたしとしたことが! 風邪ではなく、春の風邪です。訂正します
男子くん うわ・・・風邪に春とか冬とかあるんですか
俳句先輩 風邪は冬の季語。夏風邪といいますが、これはむろん夏の季語。春の風邪という季語には、朝夕の冷え込みや余寒が厳しい時期、ちょっとした油断がもとで引いてしまう風邪というニュアンスの違いがあるんですよ
男子くん バリエーション多過ぎっ! あ、先輩、今、ネットニュースで夕方から雪の予報が
俳句先輩
桜隠しというのは、春の雪のことです。
男子くん そういえば、僕がはじめて雪を見たのは、上京した春でした。アパートの入口に咲いていた
俳句先輩 美しい・・・
男子くん 先輩が「暦とともに生きる」と言う意味が少しだけわかった気がします
俳句先輩 それはよかった。さて、今夜は冷えるかもしれませんね。火鉢の出番かな。わたしは草餅を焼いて食べるのが好きでねぇ
男子くん (おじいちゃんか!)
俳句先輩 えっ、何か言いましたか?
==つづく==
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