第152回 3を作ろう(後編)

「数だけじゃなくて、足し算も作れんの?」とユーリが叫ぶ!……「数を作る」第1章後編。
登場人物紹介
:数学が好きな高校生。
ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだけれど飽きっぽい。
$ \newcommand{\HIRANO}{\unicode[sans-serif,STIXGeneral]{x306E}} \newcommand{\LOOKSLIKE}{\quad\longleftrightarrow\quad} $

数って何だろう

ユーリはクッキーを食べながら《数を作る》という話を続けている(第151回の続き)。

「ところで、空集合から数を作っていく《ノイマンの方法》だけど、これだとまだ《数》って感じがしないよね」

ユーリ「どゆこと? 一貫したルールで、$0,1,2,3,\ldots$を作れるよ?」

《ノイマンの方法》で$0,1,2,3,\ldots$を作る $$ \begin{align*} \{\,\} & \LOOKSLIKE 0 \\ \{\,0\,\} & \LOOKSLIKE 1 \\ \{\,0,1\,\} & \LOOKSLIKE 2 \\ \{\,0,1,2\,\} & \LOOKSLIKE 3 \\ \{\,0,1,2,3\,\} & \LOOKSLIKE 4 \\ \{\,0,1,2,3,4\,\} & \LOOKSLIKE 5 \\ & \vdots \\ \end{align*} $$

「うん。《互いに異なるものを、順番に作り出せる》ことはわかった。でも、数ってそういうものだっけ?」

ユーリ「数って、どーゆーものだっけ?」

「何を知っていれば《数を知っている》といえる?」

ユーリ「……」

「数があれば、何ができる?」

ユーリ「……」

「数って、どういうものだと思う?」

ユーリ「……ねー、ちょっと黙っててよー」

「はいはい」

ユーリ「数があると数えられるよね。$1$個、$2$個、$3$個って……どんどん多くしてけば」

「ほほう」

ユーリ「あと、計算もできる」

「なるほど! 計算。いいねえ!」

ユーリ「たとえば、$5$の$30$乗とか」

「おいおい。何でいきなりそんなすごい計算になるんだろう」

ユーリ「たとえば、$3$の$3$乗とか」

「その冪乗へのこだわりは何」

ユーリ「別にいーじゃん。掛け算でも割り算でも引き算でも足し算でも」

「うん、無難なところで足し算はどうだろう」

ユーリ「どーだろーって?」

「《ノイマンの方法》を使うと、空集合$\{\}$からはじめて、$0,1,2,3,\ldots$のように無数の数……っぽいものが作れることがわかった。 でもまだこの数っぽいもの、いわば《数もどき》には足し算が定義されていない

ユーリ「でも、$3 + 2 = 5$なのは変わらないでしょ?」

「そうだよ」

ユーリ「だったら……え? 何を定義することがあるの? 足し算の結果がわかってるのに」

「確かに$3 + 2 = 5$なんだけど、それは数について知識として知っているだけだよね。 《ノイマンの方法》で作った《数もどき》については、ちゃんと定義してない」

ユーリ「《$3$を作る》だけじゃなくて、《足し算も作る》ってゆー意味? そんなの作れんの?」

「作れるよ……ユーリにいつだったか話したことがあるんだけど。覚えてない?」

ユーリ「覚えてない」

「がく。でもいいよ。いまから話すから。これから《ノイマンの方法》で作った《数もどき》に対して、 足し算を定義する。つまり$+$という記号のルールを決めようというんだよ」

ユーリ「へー……じゃ、ほんとに足し算を作るんだ!」

「いっしょに考えていこう。足し算ってそもそも、どんなものだろう」

ユーリ「$3 + 2 = 5$」

「そうだね。《$3$という数》がある。《$2$という数》がある。そして、《$+$という記号》がある。それを並べて$3+2$という式を作る」

ユーリ「うん。あいかわらず回りくどいけど」

「そして$3+2$という式も数を表していて、その数は《$5$という数》に等しい。こういうことが《ノイマンの方法》で作った数もどき……めんどうだから数と呼ぶことにしよう……数でも、 きちんと定義できればいいわけだ」

ユーリ「ふむふむ。あっ、わかった!」

「え?」

ユーリ「全部定義しちゃえばいいってこと? いまは$3+2=5$だったけど……$$ \begin{align*} 1 + 1 &= 2 \\ 1 + 2 &= 3 \\ 1 + 3 &= 4 \\ &\vdots \\ 2 + 1 &= 3 \\ 2 + 2 &= 4 \\ &\vdots \\ 100+1 &= 101 \\ &\vdots \\ 9999+1 &= 10000 \\ &\vdots \end{align*} $$ ……こんなふーに、ぜんぶの数の足し算の組み合わせを決めればいい?」

「おおお。ユーリは賢いなあ。確かにこれでも足し算を定義したことにはなる! でも、ちょっとおもしろくないかな。いや、ぜんぜん悪くはないんだけど」

ユーリ「どこがおもしろくないの?」

「うん。すべての数の足し算をルールとして定めてしまうということは、このルールを作る人がすでに足し算のことを知っていて、 それを数にあてはめているわけだよね。 たとえば、$3 + 2 = 5$というのは《なぜ》$5$になるかは、 ルールを決めた人が理由もなく知っている。そこが何だかおもしろくないかな。 どうせ考えるなら《なるほど、確かにそれは足し算といえるな!》 という発見がほしい」

ユーリ「ふーん……その気持ち、ちょっとわかるかも。でも、そんなのできるの? だって、$3 + 2 = 5$に理由なんてないじゃん?」

「$3 + 2$はちょっと難しいから、$3 + 1$で……いや、$3 + 0$で考えてみようか」

ユーリ「ほほー」

「もちろん、$3 + 0 = 3$になってほしいんだよ。でも、まずは観察から。いまは《ノイマンの方法》で作った数を考えているわけだから、 $3 + 0 = 3$はこんなふうに表せるよね。この等式が成り立ってほしい、という意味」

$$ \begin{align*} 3 + 0 &= 3 \\ &\downarrow \\ \{0, 1, 2\} + \{\} &= \{0, 1, 2\} \\ \end{align*} $$

ユーリ「えーと。これは、$3$を$\{0,1,2\}$に置き換えて、$0$を$\{\}$に置き換えたってこと?」

「そうそう。いま僕たちは数のことは知らないけれど、集合というものについては知ってる。それでこの$+$という計算は何だろうかな、 って考えてようとしているんだよ」

ユーリ「……うーん、$\{0, 1, 2\}$が変わらにゃいけど。あっ、集合を足すのがあったよね。もしかして、あれ?」

「和集合のこと? すごいのを思い出したな。$\cup$だね」

ユーリ「それそれ!」

CM

ユーリ『数学ガールの秘密ノート/場合の数』や、『数学ガール/ゲーデルの不完全性定理』でも、 和集合はでてきたよね、お兄ちゃん!」
「コマーシャルはいいから」

ユーリ「$X$と$Y$の和集合は$X \cup Y$でしょ? それで、ちょうど、ほら! 要素を足せばいい!」

$$ \begin{align*} 3 + 0 &= 3 \\ &\downarrow \\ \{0, 1, 2\} + \{\} &= \{0, 1, 2\} \\ &\downarrow \text{?} \\ \{0, 1, 2\} \cup \{\} &= \{0, 1, 2\} \\ \end{align*} $$

「うん、確かに$$ \{0, 1, 2\} \cup \{\} = \{0, 1, 2\} $$ という式自体は正しいよ。 それに、空集合が出てくるときには、$+$という記号を、集合の$\cup$に読み替えてうまくいきそうではあるけど……」

ユーリ「和集合で足し算を作る! いーじゃん!」

「じゃ、これはこれとして、もう一つ別の計算を観察してみよう。こんどは$3 + 1 = 4$というのを《ノイマンの方法》で考える。 $3 + 1 = 4$という等式が成り立って欲しい。$3,1,4$という数を集合の形で表すと……」

$$ \begin{align*} 3 + 1 &= 4 \\ &\downarrow \\ \{0, 1, 2\} + \{ 0 \} &= \{0, 1, 2, 3\} \\ \end{align*} $$

ユーリ「あれ……お兄ちゃん、だめだよ。和集合じゃだめだね。だって、 $$ \{ 0, 1, 2 \} \cup \{ 0 \} = \{ 0, 1, 2, 0 \} = \{ 0, 1, 2 \} $$ でしょ。増えない。$\{0,1,2,3\}$にならない!」

「そうだね。だからユーリがさっき考えたような、和集合を作る$\cup$を足し算として使うのはまずい、ってことになる。少なくとも一般的にはまずい」

ユーリ「そっか……でもさー、それじゃ$\{0, 1, 2 \}$はどうしたら$4$になるの?」

「$4$というのは《ノイマンの方法》だと、$\{0,1,2,3\}$だよね。ユーリの疑問は、整理すると、こう言えるわけだ」

  • $3 + 1 = 4$を実現したい。
  • $3$は$\{0,1,2\}$だ。
  • $1$は$\{0\}$だ。
  • $4$は$\{0,1,2,3\}$だ。
  • どうやったら$3 + 1 = 4$が実現できるだろうか。

ユーリ「……」

「……」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

chibio6 1つ疑問が。{n}とはn+1をノイマン表記した時の最後の要素だとすると、カッコだけの表記法では{n-1}と{n}の違いが分からないのでは? なので数字表記? 2年以上前 replyretweetfavorite

uniquis 1以上の加算が定義された、が、このままだと単位元の+0が計算できないな… 2年以上前 replyretweetfavorite

sai0520 今回の話たしかにクラクラするほど面白い…!足し算を定義しちゃうんだ…!そんなことしていいんだ…! 2年以上前 replyretweetfavorite

nkc_H_Kuramoto 面白い!!! 2年以上前 replyretweetfavorite