物事は、いろいろな角度から見ると俄然おもしろくなる
——大学時代の児童養護施設でのボランティアで、「子どもってすごい!」と思われたことが、保育園設立のきっかけになったとうかがいました。そのときに、保育士や教師になろうとは思わず、保育園を経営する方向にいったのは、なぜですか?
経営を学んでいるということが、ある意味、自分のアイデンティティだと思っていたんですよね。熟練の保育士の方々とお話すると、ずっと保育を学び、そこに携わってきた人にはかなわないと思いました。でも、自分には違う価値の生み出し方があるはず。大学時代に雑誌を編集していたという話をしたように、ゼロから物事を立ち上げていくことも好きだったんです。だから自分がやるならば、園を新しくつくることだと。また、このテーマが純粋に「おもしろそうだ」と思ったんですよね。心がすごく動いた。だって、保育園を自由につくれるんですよ。あなただったら、どうしますか?
——たしかに、こんな建築にして、こんな遊具を置いて、こういう遊びをみんなでやって……と夢が広がりますね。
そうなんです。自分でつくれると思ったら、どんな保育園にしようかと、胸がときめきました。教育や子どもについてもっと学びたいと思ったし、そういうときに学ぶとすごい勢いで吸収できるんですよね。そうして、学んで、考えて、構想と妄想が広がっていきました(笑)。でももちろん、すてきさや楽しさだけではダメなんです。私は、経営というのは美しさと確からしさのバランスが大事だと思っています。
——美しさと確からしさ。理想と現実のようなものでしょうか。
やはり、210人の子どもたちとその家族、そして100人近い職員を守らなければいけない現実はありますから。美しさだけでは物事は実現しないし、確からしさだけではおもしろくない。そのバランスは、保育園立ち上げを志してから、必死になって走っているうちに、少しずつわかってきました。追いつめられると、「ああ、自分ってこういう場面で、こう思うんだ」と、自分を発見することもありましたね。
——「子どもってすごい!」というのも、一つの発見だったのでしょうか。
そうですね。そして、子どものすばらしさに気づかせてくれたのは、児童養護施設のスタッフさんたちだったんです。自分一人だったら、「かわいい」にとどまっていたかもしれません。まわりのすてきな大人たちが、いろいろな見方を教えてくれた。子どもの様子が多面的に見えてきたときに、おもしろいと思ったんです。だから、それからはなるべく、自分視点で物事を見ないで、さまざまな角度から見るように心がけてきました。そうすると、多様な世界に出会えるようになりました。この感覚は、子どもたちにも体験してもらいたいです。
教育は社会を追いかけるものではなく、社会をつくるもの
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