加藤貞顕(以下、加藤) はじめまして。お会いできて光栄です。三木さんの著書『面白ければなんでもあり 発行累計6000万部——とある編集の仕事目録』を読ませていただきました。
三木一馬(以下、三木) ありがとうございます。今日はよろしくお願いします。
加藤 とてもおもしろかったです。これまでに作られた本の部数もとんでもないですし、作品作りの手の内も明かしまくっていて、ここまで書いていいのかと思いました。
三木 ありがとうございます。うれしいです。
加藤 ところで、三木さんがメディアワークスに入社されたのは2000年ですよね。ぼくがアスキーに入社したのも2000年なんですよ。
三木 なるほど。別の会社ですが同期ということですね。
加藤 その後、アスキーとメディアワークスは合併して、いまのアスキー・メディアワークスになるわけですが、合併前に僕が転職したので、一度も同じフロアにいたことはなかったですね。同じ時期に編集者になった人がこんなことをしているのか。本当にすごいなと思って本を拝読しました。
三木 ほんとに恐縮です。
加藤 それにしても、担当書の累計発行部数6000万部は前人未到レベルですよね。ひとりの編集者が担当した部数として、これより多い人は今までにいるのかなと思います。今日は、三木さんの仕事の仕方の話と、ライトノベル(ラノベ)の魅力やビジネス面の話を伺えればと思います。ラノベの市場って、今、200億円もあるんですね。
三木 一番のピークのときはおよそ250億くらいあったんですよ。今ちょっとだけ下がってきていて。でも200億はあると思います。
加藤 しつこいですが、担当書籍の累計発行部数の6000万部って本当にすごいです。1万部の本を100冊つくっても、100万部にしかならないわけで。この数字がいかにとんでもないことかわかりますね。
三木 マンガと一緒でシリーズとして何十冊も続いていますから、毎巻が完全新作という売り方に比べれば、まだ達成しやすいと思います。
加藤 ラノベって基本的に判型は文庫なんですよね。
三木 そうです。
加藤 そうすると一冊600円ぐらいですよね。600円かける6000万部っていくらなんだろう……おお、360億円!! すごいですね(笑)。
三木 15年もかけていますから……!
加藤 でも1年でも30何億円だから、ラノベ市場の10%以上くらい、いってるってことですよね。すごいなあ。電撃文庫全体の発行部数は今どのぐらいなんですか?
三木 おかげさまで創刊から22年を経て、1億5000万部を超えるところまできています。
加藤 電撃文庫全体で? だとしたら、三木さんが電撃文庫の発行部数の半分ちかくを担当しているんですね……。
タイトルはギャップを意識する
加藤 三木さんの本はタイトルがいつもキャッチーですよね。長文タイトルのはしりで、それがビジネス書にも流れてきました。
三木 加藤さんの担当された『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社)の方が先じゃなかったでした? 僕が担当した最初の長文タイトルは2008年の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(電撃文庫)なので……。
加藤 いや、『もしドラ』は2009年の年末の発売だったので、やっぱりこちらが影響を受けていたと思います。一般的なことを言うと、タイトルって短い方がいいじゃないですか、本当は。だからはじめは短いのをずっと考えていて。そう、でもあのころ、2008年ぐらいに、長いタイトルがやや流行ったんですよ。それで長いのもアリなのかって。ほかに長いやつあります? ラノベって。
三木 たくさんありますね。最近は特に増えたかもしれません。
加藤 『もしドラ』も最初短くしようといろいろ考えたんですよ。やらなくてよかったなと思うのが、「ドラッカーと甲子園」(笑)。
三木 「ドラッカーと甲子園」(笑)! そのタイトルにしないほうが、確かによかったかもしれません(笑)。やっぱり、この本には「女子マネージャー」って言葉がないと!
加藤 とにかくまずは基本に忠実に、短くしたかったんですね(笑)。著書の中では、担当作品のタイトル案とかタイトリング、コピーライティングの技法とか、これでもかってほど紹介されていて、よくここまで公開なさったなと思いました。完全に敵に塩を送る行為と思いますので。本の中ではひとつの作品に20本近くタイトル案を挙げていましたが、いつもこんなに考えるんですか?
三木 そうですね、キャッチコピーやタイトルを考えるのはけっこう好きです。ただ、なかなか上手いものが閃かないですね。
加藤 『とある魔術の禁書目録』とか、すごくいいタイトルですよね。
三木 ギャップをすごく意識しているんです。『とある』は「魔術」「禁書目録」というブラックなワードに、素朴なイメージの「とある」というワードをくっつけると、ギャップが出てみんなが「おっ」と思ってくれるんじゃないかな、と想像して決めてみました。
加藤 確かにギャップですね。著書の中に、カバーのイラストとタイトルの間にもギャップをつけるとか、キャラクターの見た目と性格にもギャップをつけるとか書かれていて、おもしろかったです。
三木 見た目ロリ少女なのに100歳超えたお婆さんとか、ムチャクチャ身体がデカい男性なのにあやとりが得意とか、そういったキャラクターが好きなんですよね。そのイメージをタイトルにも当てはめてみたと言いますか。
加藤 ちょっと変わったタイトル、いいですよね。見たときに、なんだろうと、思うんですよね。
年間350回の打ち合わせ
加藤 ちなみに、今までで一番売れているラノベってなんですか?
三木 どういう定義で「一番売れている」とするか、そして「ラノベ」はどのあたりまで同じレーベルか、にもよると思うのですが、ひとまずは自分の古巣であるKADOKAWA内レーベルのシリーズ累計で考えてみます。シリーズ累計ですと『スレイヤーズ!』(富士見ファンタジア文庫)が2000万部を超えていますね。これが一番じゃないでしょうか。累計1000万部超えてるのは、『魔術師オーフェン』(富士見ファンタジア文庫)、『フルメタル・パニック!』(富士見ファンタジア文庫)、『とある魔術の禁書目録』(電撃文庫)、『ソードアート・オンライン』(電撃文庫)などですね。
加藤 みんなすごい勝負をしてるんですね。
三木 競争が激しい市場であるのは間違いないので、厳しいは厳しいです。
加藤 仕事の量の話もしましょう。本の編集者って、年間に10冊くらい担当するのが平均くらいで、どんなに多くても20冊ぐらいだと思うんです。三木さんは、年間何冊ぐらい出してるんですか?
三木 今は30冊とか……それくらいでしょうか。昔は最高で70冊とかありました。でもシリーズもので、単巻ではないのでどうにかやれたのだと思っています。ピークのときは、毎月の刊行リストで、3分の2が僕の担当作だったときがありました(笑)。
加藤 本に書いてありましたけど、1冊に対して5回、長時間の打ち合わせするんですよね。年間70冊に対してそれぞれ5回打ち合わせをすると、年に350回打ち合わせになってしまうんですが(笑)。
三木 ほぼ毎日……ですかね。
(次回、4/14更新予定)