Q.営業2課の美女・種ヶ島 恵のもうひとつの未来とは?

クッキングパパを読んでいて少し不思議に思うことは、登場人物の独身女性がほとんど「趣味」が見えないこと。「近所のパン屋の子を預かる」「親戚から無理矢理勧められた見合いをする」などばかりで本人の趣味嗜好があまり見えてこない。しかし、ただひとり自分の趣味を持っている女性がいる。それが種ヶ島 恵。営業部の女性で唯一、内勤の営業補佐の業務から外回り営業への転向を達成した女性だ。種ヶ島の趣味は「プロレス観戦」。実は種ヶ島には、憧れであるプロレスラーになるチャンスもあったのだ。

A.博多のいちOLの種ヶ島は、早すぎた「プロレス女子」。実は、メキシコで女子プロレスラーになる道もあった!?

私がクッキングパパを読んでいて少し不思議に思うことは、登場人物の独身女性がほとんど「趣味」が見えないこと。

荒岩に想いを寄せていた女子社員・木村夢子なんて、休日にやっていたことといえば「近所のパン屋の子を預かる」「親戚から無理矢理勧められた見合いをする」など、「お母さんになるための準備運動」のような行動ばかりで本人の趣味嗜好があまり見えてこない。

現在では普通に女性が自分の趣味にお金を使ったり、そのハマりっぷりをブログやSNSで発信して同じ趣味の仲間とつながったりすることはよくある。そんないまを生きる私からすると、女性の個人的な趣味が描かれないのは、ちょっと寂しく感じる。

しかし、そんな金丸産業営業2課でただひとり自分の趣味を持っている女性がいる。

それが種ヶ島 恵。営業部の女性で唯一、内勤の営業補佐の業務から外回り営業への転向を達成した女性だ。種ヶ島の趣味は「プロレス観戦」。

僭越ながら、私もかつて東京に住んでいたときは月に1~3回、新潟県に引っ越した現在も月に1度はプロレス観戦をするくらいのプロレスファンなので、種ヶ島はいわばプロレスファンの先輩。しかも、種ヶ島とプロレスのエピソードは、クッキングパパの世界のなかでも類を見ないほど夢があるのだ。ぜひここは、種ヶ島先輩とプロレスのことを語りたい……!! 皆様にはしばし、おつきあいいただきたい。

種ヶ島はある日勤務終業後に地下鉄に飛び乗り、プロレス西の聖地・博多スターレーンに行く。

いまでこそプロレスが女性にも大人気になり、プロレス会場でも女性をたくさん見かけるようになったが、当時(1993年)はまだプロレスファンは男子が主流。そんななか、「彼氏に連れられて」とかではなく、自らも柔道初段の腕前を持ち、プロレスだけでなく格闘技全般が大好き(ちなみに相撲も好き)な種ヶ島は、「一度本物を観てみたい!」という思いで、ひとりで初の生観戦に挑戦するのだ。

女性が男性っぽい趣味を持っていると「前につき合った男の影響なんじゃないの~」と決めつける人がいまなおいるけれども、こうしてひとり抑えきれない思いを胸にひとり会場に向かう女だっているよね、種ヶ島ちゃん……! と胸が熱くなる。


○31巻 cook.309 P129 プロレスファンにはおなじみ西の聖地・博多スターレーン©うえやまとち/講談社

しかも種ヶ島の好きなプロレスというのが、当時「四天王プロレス」で人気の全日本プロレスでも「闘魂三銃士」時代であった新日本プロレスでもなく、ルチャ団体「ルチャ・ユニバース」を観に行っているのである。

「ルチャ・ユニバース」は、その名の通りメキシコのプロレスのスタイルであるルチャ・リブレスタイルの団体。メキシコ人選手を多数招聘し、本場のルチャでコアなファンを熱狂させる通好みの団体だ。

出場しているのはメキシコの選手が多い。当時はネットが未発達の時代、全日本・新日本プロレスよりも情報が集めにくかっただろうに、ルチャにいきなり傾倒するとは、種ヶ島はなかなかのマニアだったのかもしれない。しかも、会場で知り合いの「きんしゃい屋のママ」を見つけ、プロレス女子同士のコミュニケーションが生まれるのもなかなか現在に通じるものがある。


○31巻 cook.309 P133 プロレスファンの心強いパイセンをゲット©うえやまとち/講談社

しかし、この「きんしゃい屋のママ」が博多の名物プロレスファンで、地元のプロレスの関係者やプロモーターと知り合いだったことで、種ヶ島の運命が大きく動く。

事情通のきんしゃい屋のママから、種ヶ島が大ファンであるルチャ・ユニバースのサルサマスク選手の不振の原因が「日本食に馴染めず調子が出ない」からという話を聞いた種ヶ島は、荒岩からメキシコ料理「チリコンカーン」を習い、サルサマスクにプレゼントする機会をゲット。

こんなときには荒岩のブラックボックス的な料理の知識はほんと頼れる。荒岩直伝の「チリコンカーン」の本場さながらの味のおかげでサルサマスクと急接近するのだ。

控え室に出入りできるほどの力を持ったきんしゃい屋のママはタニマチかなにかなんだろうか。そしてルチャ・ユニバースよ、試合を控えた選手に素人の作った料理を食べさせるのはマネジメント的にどうなんだ。ちょっと疑問が湧いてこなくもないが、種ヶ島のプロレスファンライフが特別なものになったのは確かだ。


○31巻 cook.309 P139 やったね!©うえやまとち/講談社

博多からメキシコへ……ルチャドーラ・種ヶ島誕生なるか?

それからというもの、種ヶ島はきんしゃい屋のママと一緒にサルサマスクの試合があるたびに控え室に会いに行ったりして、一般のファン以上の関係になる。

あるときなんかはサルサマスクの巡業のオフ日にグループで海水浴に行き、なんだかいい雰囲気になっている。

ま、まさか、種ヶ島ちゃんはサルサマスクの現地妻になってしまうのでは……!


○37巻 cook.364 P32~33 サルサマスクといい仲に……と思いきや、種ヶ島が食いついたのはその巡業生活©うえやまとち/講談社

しかし、サルサマスクのタフなプロレス巡業エピソードを聞いて、種ヶ島は「あたしもそんな暮らししてみたいな……」とつぶやくのだ。

私の邪推は的外れだった。

種ヶ島は、プロレスラーの彼女になりたいわけではない。彼女は旅から旅の闘いの日々を送るプロレスラーの生活そのものに純粋に憧れているのだ。

実は種ヶ島には、憧れであるプロレスラーになるチャンスもあったのだ。

博多スターレーンでの女子プロレスの試合のファンイベントで、女子レスラーと一般のファンが闘える「プロに挑戦」という現在ではなかなかないようなレアイベントが開催された際、きんしゃい屋ママに「参加者が少ないから出てほしい」と頼まれた種ヶ島。あまり気乗りはしないものの参加を承諾した種ヶ島だが、出てみたらばプロの女子レスラー2人を余裕で投げ飛ばしてしまう。相手の女子レスラーとて、ファンサービスの一環で本気ではなかっただろうが、いちファンがいきなりリングに上がって、こんなにもいい動きができるのはすごいこと。

この舞台上での度胸、ただ者ではない。


○37巻 cook.363 P17 種ヶ島、鮮やかな巴投げ©うえやまとち/講談社

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クッキングパパの謎

澁谷玲子

開始から30週年を迎えた『週刊モーニング』の人気連載『クッキングパパ』。ガッチリとした体型としゃくれたアゴがトレードマークの無骨な九州男児・荒岩一味が織りなす、身近な素材を作って作った絶品料理の数々に、ヨダレを垂らしながら読んだ読者も...もっと読む

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コメント

k_ksm 好きなことに対して素直な気持ちで向き合う姿が健気で素敵やん? 3年以上前 replyretweetfavorite

ak303  プロレス愛とクッキングパパ愛に溢れた楽しい記事! 3年以上前 replyretweetfavorite