アルファ碁が、囲碁というゲームの伸びしろを教えてくれた
加藤貞顕(以下、加藤) さて、ここまで全5局を振り返ってきたわけですが、イ・セドルさんとアルファ碁の対局結果について、囲碁のプロ棋士はどういうふうに受け止めてるんですか?
大橋拓文(以下、大橋) もうアルファ碁が強すぎたので、よく「アルファ碁先生に代わって打ってもらいたい」とぼやいてます(笑)。
山本一成(以下、山本) 本当に囲碁界のみなさんは、柔軟性があるよね。ありすぎるくらいだ(笑)。国際的なゲームだからなのかな、業界全体にオープンな感じを受けました。
左:山本一成さん、右:大橋拓文六段
加藤 山本さんは、将棋プログラムのPonanzaで最強になって、次はということで、囲碁のプログラムに挑戦しているんですよね。ドワンゴがサーバー環境などのリソースを用意して開発をすすめる囲碁ソフトZENのチームに加わったと、先日発表がありました。この対局を受けていかがですか?
山本 いやあもう、やばいですよね。とにかくやばい。手放しで賞賛しますよ。チェスや将棋、囲碁といったゲームソフトの世界で、アルファ碁はまさに金字塔を打ち立てました。レーティングでいったらZENとアルファ碁は、1月に『Nature』でアルファ碁についての論文が発表された時、1000点くらい離れてたんです。ZENが2000、アルファ碁が3000くらい。 ※レーティングは強さを表す指数。400点差で勝率90%程度になるように数字を調整していく仕組みが一般的。
大橋 ZENはアマチュアのトップより少し弱いくらいだよね。
山本 ほかの囲碁プログラムも2000年代後半からけっこう強くなってきてはいたんだけど、アルファ碁は桁違いです。やっぱり開発における人的リソースが潤沢なのが強いですよね。
加藤 Googleが2年前に、ディープマインド社を約5億ドルもの大金で買収したのは、何より人材がほしかったからですよね。
山本 このチャレンジマッチは、興行としても最高の盛り上がりを見せましたよね。囲碁界にとってもすごくよかったんじゃないでしょうか。
大橋 「最高の斬られ方だった」と言われていましたね。
山本 まさにそうですよ。だからこれ以降は、いま世界のレーティングトップの棋士・柯潔(カケツ)さんが出てくるかどうかじゃないかな。私が対局のコーディネーターだったらそう考える。
加藤 セドルさんとの対局が決定してから、ヨーロッパチャンピオンに勝ったことを論文といっしょに発表するという、Google側のプロモーションの流れも絶妙でしたよね。しかもヨーロッパチャンピオンと戦った時は、まだここまで強くなかったから、その棋譜を見てセドルさんも油断してしまったんじゃないでしょうか。
大橋 あの対局のアルファ碁は弱いという評価が多いんですけど、ぼくはけっこう強いと思っています。間違いなく今のほうが強いですけど、あの当時対局しててもセドルさんと結構いい勝負だったかも。
山本 さすがにそれはないんじゃないですか。論文により強くしたって書いてあったし、じっさい今回セドルさんと対局したバージョンは、もうレーティング4500に達したそうですよ。数ヶ月で1500アップって、おそろしい数字ですよ。
加藤 短期間で、どうやってそんなに強くしたんでしょうか。