ついに囲碁の神様が降臨した?
加藤貞顕(以下、加藤) さて、三連敗を喫して、イ・セドルさん自身も「こんな姿を見せてしまい申し訳ない」と弱気になって迎えた第4局ですが……。
大橋拓文(以下、大橋) 第3局と第4局は連日でおこなわれたんですよね。イ・セドルさんがどんなふうに気持ちを立て直したのか、ぼくには想像もつきません。
左:山本一成さん、右:大橋拓文六段
山本一成(以下、山本) いやあ、この状況でよくしっかり打ったよね。
大橋 第4局の序盤は11手まで第2局とまったく同じ展開になったんです。見ている時、「これはついに、囲碁の神が降臨したのか!」と思いました(笑)。
山本 最初から最後まで読み切って、1手も間違えない囲碁の神様? そんなわけないですよ(笑)。
大橋 山本さんはニコニコ生放送の解説の時も、「アルファ碁は人間よりも強いかもしれないけど、囲碁の神よりはだいぶ弱い」って言ってたよね。でも、碁打ちはみんな恐怖してたよ(笑)。これはついにアルファ碁が神となって最善の布石(序盤)を打ってきたんだ、って。そして、12手目にイ・セドルさんが第2局とは違う手を打った。それも、前例にない手。
白12手目
加藤 このセドルさんの手って定石から外れてますけど、つまり、ちょっと損な手ってことになるんですか?
大橋 ある部分では損に見えるんですけど、違う部分で価値が大きい手なんですよね。広くカバーできるというか。
山本 広くカバーできることは、「薄い」とも捉えられるじゃない? 相手が突破しやすくなってしまう。そのあたりの正確なトレードオフがわからないんだよなあ。
大橋 まあ、広けりゃいいというものでもないね。その微妙な感覚は、棋士で全員違うと思います。その感覚で、より正確に形勢判断ができる人ほど強いんですよね。で、そのあと何手かアルファ碁が打った手は、自分の第一感とは違ったんだけど、「ここを取るほうが大きいと判断したんだな、アルファ碁先生は」と思いました。
山本 アルファ碁を信じすぎでしょう。そんなにあがめる必要ないよ(笑)。
大橋 いやいや(笑)。でもね、みんなそれくらい囲碁というゲームをわかってなかったんだよ。プロでも。
山本 たしかに、囲碁の「攻略されてなさ」は、将棋の比ではない。それは、両方のプログラムを開発してみて思う。
大橋 アルファ碁は本当に布石(序盤)がうまいんです。イ・セドルさんが最初からこんなに時間を使うなんて。彼が相手よりも時間を使っている状況って、世界戦でもまれなんですよ。セドルさんって、普段は相手が必ずどこかで間違うと思いながら碁を打っているんだそうです。つまり、最善手を打とうとするよりも、間違ったところを見逃さず、そこをとがめていくことで勝負に勝ってきた。セドルさんは、相手の考えていることを察知する能力も高いんです。それはもう、動物的なほどに。相手の考えていることを察知して、意表をつく手を打つ。それでみんな時間を使わされてしまう。
山本 それ、すごく強いってことだよね。
大橋 だから、イ・セドルさんは強いんだって!(笑)
山本 いや、時間は不利になるとやっぱり使っちゃうから。相手より強いから時間を使わないんだ。
大橋 そうだね。今回セドルさんは、その方法が通じない相手と対局して、初めて1手目から最善手を考えなければいけない状況に追い込まれたんだと思う。
加藤 相手との関係性において強い棋士っていますよね。将棋の世界だと大山名人とかが代表で、「勝負に強い棋士」って言い方をしますけど、そういうタイプはコンピュータとは相性が悪いかもしれませんね。人間と違って、相手は動揺とかしないから。
コンピュータを混乱させる妙手で、形勢が逆転した
加藤 ところで、アルファ碁って、広いスペースがあっても相手の石にツケて(くっつけて)打ったりしますよね。こういう打ち方って、通常、あまりよくないと言われてませんか?
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