読んでいない手を打たれると途端に弱くなる? アルファ碁の攻略法を探る

囲碁プログラム「アルファ碁」とイ・セドル九段の対局は、第1局から第3局までアルファ碁の完勝。もう人間はコンピュータに勝てないのか、と思われた第4局、セドル九段の放った1手が、形勢をひっくり返しました。歴史に残ると言われるその手は、どんな手だったのでしょうか。「Google DeepMind Challenge Match」の第4局、第5局をコンピュータ囲碁に詳しい棋士・大橋拓文六段と、将棋プログラム・Ponanza開発者で囲碁プログラムも開発している山本一成さんと共に振り返ります。(聞き手 cakes加藤貞顕)

ついに囲碁の神様が降臨した?

加藤貞顕(以下、加藤) さて、三連敗を喫して、イ・セドルさん自身も「こんな姿を見せてしまい申し訳ない」と弱気になって迎えた第4局ですが……。

大橋拓文(以下、大橋) 第3局と第4局は連日でおこなわれたんですよね。イ・セドルさんがどんなふうに気持ちを立て直したのか、ぼくには想像もつきません。


左:山本一成さん、右:大橋拓文六段

山本一成(以下、山本) いやあ、この状況でよくしっかり打ったよね。

大橋 第4局の序盤は11手まで第2局とまったく同じ展開になったんです。見ている時、「これはついに、囲碁の神が降臨したのか!」と思いました(笑)。

山本 最初から最後まで読み切って、1手も間違えない囲碁の神様? そんなわけないですよ(笑)。

大橋 山本さんはニコニコ生放送の解説の時も、「アルファ碁は人間よりも強いかもしれないけど、囲碁の神よりはだいぶ弱い」って言ってたよね。でも、碁打ちはみんな恐怖してたよ(笑)。これはついにアルファ碁が神となって最善の布石(序盤)を打ってきたんだ、って。そして、12手目にイ・セドルさんが第2局とは違う手を打った。それも、前例にない手。


白12手目

加藤 このセドルさんの手って定石から外れてますけど、つまり、ちょっと損な手ってことになるんですか?

大橋 ある部分では損に見えるんですけど、違う部分で価値が大きい手なんですよね。広くカバーできるというか。

山本 広くカバーできることは、「薄い」とも捉えられるじゃない? 相手が突破しやすくなってしまう。そのあたりの正確なトレードオフがわからないんだよなあ。

大橋 まあ、広けりゃいいというものでもないね。その微妙な感覚は、棋士で全員違うと思います。その感覚で、より正確に形勢判断ができる人ほど強いんですよね。で、そのあと何手かアルファ碁が打った手は、自分の第一感とは違ったんだけど、「ここを取るほうが大きいと判断したんだな、アルファ碁先生は」と思いました。

山本 アルファ碁を信じすぎでしょう。そんなにあがめる必要ないよ(笑)。

大橋 いやいや(笑)。でもね、みんなそれくらい囲碁というゲームをわかってなかったんだよ。プロでも。

山本 たしかに、囲碁の「攻略されてなさ」は、将棋の比ではない。それは、両方のプログラムを開発してみて思う。

大橋 アルファ碁は本当に布石(序盤)がうまいんです。イ・セドルさんが最初からこんなに時間を使うなんて。彼が相手よりも時間を使っている状況って、世界戦でもまれなんですよ。セドルさんって、普段は相手が必ずどこかで間違うと思いながら碁を打っているんだそうです。つまり、最善手を打とうとするよりも、間違ったところを見逃さず、そこをとがめていくことで勝負に勝ってきた。セドルさんは、相手の考えていることを察知する能力も高いんです。それはもう、動物的なほどに。相手の考えていることを察知して、意表をつく手を打つ。それでみんな時間を使わされてしまう。

山本 それ、すごく強いってことだよね。

大橋 だから、イ・セドルさんは強いんだって!(笑)

山本 いや、時間は不利になるとやっぱり使っちゃうから。相手より強いから時間を使わないんだ。

大橋 そうだね。今回セドルさんは、その方法が通じない相手と対局して、初めて1手目から最善手を考えなければいけない状況に追い込まれたんだと思う。

加藤 相手との関係性において強い棋士っていますよね。将棋の世界だと大山名人とかが代表で、「勝負に強い棋士」って言い方をしますけど、そういうタイプはコンピュータとは相性が悪いかもしれませんね。人間と違って、相手は動揺とかしないから。

コンピュータを混乱させる妙手で、形勢が逆転した

加藤 ところで、アルファ碁って、広いスペースがあっても相手の石にツケて(くっつけて)打ったりしますよね。こういう打ち方って、通常、あまりよくないと言われてませんか?

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Googleの人工知能と人間の世紀の一戦にはどんな意味があったのか?

大橋拓文 /山本一成

先日行われた、Googleの人工知能「アルファ碁」と、世界トップクラスの囲碁棋士「イ・セドル九段」の対戦は、コンピュータの4勝1敗で幕を閉じました。その中身を、プロ棋士の大橋拓文六段と、最強将棋ソフトPonanzaの作者・山本一成さん...もっと読む

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コメント

kirakumono コンピューターは論理が弱いって不思議な感じ。おもしろい。 3年以上前 replyretweetfavorite

lettuce1917 「第5局が終わったあとの記者会見で、「対策したのに勝てなかったこの敗北は、最初に三連敗したときよりもつらい」とセドルさんは言っています。でも、全5局の対局を振り返って、「碁の本質は楽しむこと。アルファ碁との対局はずっと楽しかった」と」https://t.co/UPwcbFqlSK 3年以上前 replyretweetfavorite

diveintocloud 『人間は文脈で考えるので、その手だけを純粋に評価できないんです。こんな手を打つってことは、こいつは弱いなと考えちゃう』: 3年以上前 replyretweetfavorite