僕は「月刊カドカワ」編集長だったころ、「オレは駄目になっている」と無性に苛立っていた。自分で自分に腹が立ってたまらなかった。やれ「雨が降った」だの「腰が痛い」だの理由をつけて、コンサートや芝居を観に出かけない。面倒くさい企画には顔を出さないで、大変な作家は部下に任せてしまっていた。
ジムで汗を流して身体を鍛えなければ、僕はとてつもなくイライラする。僕は昔から何かに取り憑かれたように、まるで強迫観念のように身体を鍛えていた。トレーニングを1日でもサボれば、「今日のオレはなんと駄目な人間なのか」と自己嫌悪に陥る。だからこそ、どんなに多忙でもどんなに疲労困憊していても今日トレーニングする。「ひょっとすると明日はトレーニングができないかもしれない」と怖れて次の日もその次の日も休むことなくトレーニングを続ける。
その僕が「面倒くさい」「今日は疲れたし腰も痛い」というくだらない理由で、コンサートや芝居、映画などの刺激物に触れることを億劫に思う。外からはやり手の編集長に見えていたかもしれないが、僕自身、自分はなんて駄目になってしまったんだと思っていた。
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