A.とにかく古い社風の金丸産業。ただひとり自分の運命を切り開いたのは、クッキングパパ・荒岩の部下、種ヶ島 恵!
クッキングパパ・荒岩の勤める金丸産業は古い体質が根強く残り、女性にとって働きやすいとはいえない会社である。
荒岩が率いる営業2課でも、男性社員は外回り営業、女性は一律に内勤事務と性別で役割分担を割りふっているように見える。女性は全員ストライプのシャツにベスト、タイトスカートの事務員の制服を着て、営業補佐など内勤の仕事に従事している。希望者がいなかったのかもしれないけれど、性別によって役割が分担されている印象が強い。
荒岩の妻・虹子は新聞記者としてキャリアを重ねて働いているけれど、荒岩の部下の女性たちは結婚を機にやめたり、30歳前後に限界を感じて辞めていくケースが多い。
そんななかただひとり、キャリアを積み重ね営業職として独り立ちしようとしている女性がいる。それが種ヶ島恵である。彼女は九州大学経済学部を主席で卒業した超優秀な新入社員だった。しかし、彼女の金丸産業でのキャリアスタートは決して順風満帆なものではなかったのだ。
○13巻 cook.127 P128 種ヶ島 恵、初登場©うえやまとち/講談社
まず災いしたのは、彼女のルックスのよさである。
指導係の田中が鼻の下を伸ばすのはもちろん、人格者で知られる荒岩の上司で営業2課の大平課長までも彼女のかわいさに心が狂ったのか、飲み会で自分の隣に座らせて「手相を見てあげよう」と言って手を触るなど、セクハラまがいの行動に出ている。まったく金丸産業のこの辺のモラルのユルさはいま現在の常識から見ると「うわぁ……」と声が漏れる。
○13巻 cook.130 P169 あれっ、大平課長、キモ…い…?©うえやまとち/講談社
正気を失ったのは大平課長だけではない。
彼女を目にした取引先の三星産業の竹田氏・女好きで知られるロメオ・アルフ社のティート・チョッタ氏などの中年男性たち(荒岩までも流れで参加)が「種ヶ島ちゃんを守る中年の会」を結成したのだ。
控えめに言っても「気持ち悪い」としか表現しようのないこの状況、説明しづらいので以下のページでどうかご確認ください……。
○13巻 cook.130 P180 地獄か©うえやまとち/講談社
「かわいい」ゆえの試練を超えて……種ヶ島が風穴をあける!
「種ヶ島ちゃんを守る中年の会」規約の「彼女に交際を申し込む者が現れたときにはただちにこれを阻止する」の項目がなんともキモ……、いや、とんでもない。
勝手に「恋愛禁止」のルールをオッサンたちに作られるなんて、まるでアイドル扱いだ。
「課長や取引先にちやほやされるなんて、仕事に有利じゃん」と思うかもしれないが、想像してみて欲しい。
きっと種ヶ島は同期に「課長たちのあの『種ヶ島ちゃんを守る中年の会』……だっけ? なんなのアレwww?」と笑われ、仕事を評価されても「あの娘、ほら、課長のお気に入りだから……」と誹られたのではないだろうか。
しかもプライベートの恋愛にまで介入しようとするんだから、百害あって一利なし、とまでは言わないけど、せいぜい五利くらいしかなさそう。
こんな浮かれたオッサンばかりの職場は嫌だ。勤めたくない職場No.1だ。
しかし、もともと優秀で柔道有段者でもある種ヶ島は、その胆の座り方と根性でもってこの状況に風穴をあける。彼女はこのように周りのオッサンたちにチヤホヤされても「職場の華」に甘んじたりはしなかったのだ。日頃の仕事を確実にこなしつつ、「いまのままでいいのか」と悩み、営業補佐ではなく、得意先との窓口となる外回り営業を目指すようになる。
これは営業2課では初のこと。
男性は外回り営業、女性は営業補佐などの内勤で事務仕事、という枠から飛び出そうとしたのだ。
種ヶ島の仕事にかける情熱は仕事仲間たちに伝わり、東京支社で頑張る後輩の工藤の姿を見て焦ったときには、先輩の田中が肩の力を抜くように励ましてくれたり、荒岩には得意先の「牧原トーイ」の仕事をひとりで任せてもらえるようになったり、もうアイドル的な「職場の華」ではなく、優秀な仕事仲間として認められるほど成長している。
ついには営業2課での女性では初めて、あのストライプのシャツとベスト・タイトスカートの制服を脱ぎ捨て、自前のスーツを着て大口の取引先担当の外回り営業になる。
これにはどうやら荒岩のほかに、田中からも「彼女はやれる」という後押しがあったようだ。も~、いいとこあるじゃん田中!
○110巻 cook.1060 P11 いいところのある田中©うえやまとち/講談社
そして、自分が新人時代にエグいセクハラを受けたロメオ・アルフ社のティート・チョッタとも対等に渡り合えるようになるのだ。新人時代に彼女のかわいさに鼻の下を伸ばし、アイドル扱いした男性社員たちを実力で一人前のビジネスマンとして認めさせ、対等な立場を手にしているという、なんとも胸アツな展開!
種ヶ島 恵は、ともするとオッサンワールドになりがちなクッキングパパの世界で、現代社会を生きる女子が感情移入できる数少ない人物なのだ。
○110巻 cook.1060 P5 この再会、胸アツ©うえやまとち/講談社
そして、種ヶ島はもうひとつ次のステージに行こうとしている。彼女は会社の後輩であり、東京支社に転勤となった工藤と遠距離恋愛の末結婚しているのだが、授かり婚だったためにただいま子育て真っ最中。
しかし、育休をとっているのは夫の工藤のほう。
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