宇野常寛 前編「起業だけは絶対嫌だと思っていたけど、そうも言ってられなくなった」

自ら会社を起業し、雑誌『PLANETS』をはじめ、メルマガなどで活発にコンテンツを発信し続けている作家の宇野常寛さん。昨年末、初めて自社で制作・販売した落合陽一さんの書籍『魔法の世紀』も大きな話題を呼んでいます。起業はしたくないと思っていた宇野さんの背中を押した、出版ビジネスの危機とは? cakes3周年記念・特別編として弊社代表の加藤貞顕がお話を伺いました。

最初は自己実現、能力の証明の手段だった

加藤貞顕(以下、加藤) 今回は、「メディアビジネスの未来」というテーマで、宇野さんにお話をお伺いできればと思います。現在は評論家としての活動のほか、PLANETSという会社を立ち上げて、雑誌『PLANETS』の刊行や有料メルマガ「ほぼ日刊惑星開発委員会」の発行など、さまざまな活動をされています。
 まずは、『PLANETS』というメディアの始まりから、今に至るまでのお話を教えていただけますか?

宇野常寛(以下、宇野) 雑誌の『PLANETS』を最初に作ったのは、もう10年くらい前ですね。当時、京都で普通に会社員をしていたんです。でも物書きをしたい、自分でメディアを作りたいという気持ちが強くなっていて。東京の出版業界に強いコネクションがあったわけでもなく、地方にいるので情報発信の仕事に就くのは難しい。でも、もし自分で雑誌を作って、それが売れたら、自分たちの能力の証明になるんじゃないかと考えたんです。
 それで、僕がおもしろいと思っている書き手の人たちに声をかけて、ウェブサイトで評論活動を始めました。その集大成として作った雑誌が『PLANETS』です。

加藤 当時は、宇野さん、27歳くらいですよね。僕、『PLANETS』が創刊されたころのことを覚えています。いきなり、おもしろいことをやっているコンテンツ群がネット上に現れて、雑誌まで出してしまう。ぼくは当時、出版社の編集者だったんですが、なんだこれは、と思いましたよ。『PLANETS』は、最初からビジネスにするという気持ちで立ち上げたのですか?

宇野 いや、そういうわけでもないですね。当時は「自分たちの方が東京の業界人よりアンテナも高いし、おもしろいものが作れるんだ!」という強い気持ちがあって作ったんですけど、今思うと、若さゆえの過ちですよね(笑)。でもね、案外間違ってなかったとも思います。実際、本屋に並んでいる雑誌に同世代の書き手がちらほら載り始めて、まあ、端的に言ってまったく面白くなかったんですよね。だから「これは自分たちでやった方がいい」と思ったんです。僕は昔から、文句ばっかり言って自分では手を動かさないという人たちが一番嫌いなので、自分たちでやってみようとすぐ思ったわけです。
 じつは『PLANETS』を作る前、学生の頃の同人サークルのつながりで知り合った編集者に「僕はそこらへんの人たちより、おもしろいものが書けるので仕事をください。その証明のために、僕たちはこれからホームページを立ち上げるし、雑誌も作ります」とメールしたんですよね。

加藤 メールでそんな宣言をしてから『PLANETS』を作ったんですか! かなり気合いが入ってますね。しかも当時、会社員だったんですよね。

宇野 会社員です。出版に関してはほとんど素人でした。当時の直属の上司が、やはり会社員しながらペンネームでずっと本を書いている全共闘世代の人で、彼の影響も大きかったですね。

加藤 へええ。その創刊号は売れたんですか?

宇野 最初は、形になればいいというくらいの気持ちでした。創刊号は200部刷って売り切れたので150部増刷して、これも売り切れました。「よかったよかった、これで次の号も作れるね」くらいの話しかしていなかったと思います。
 その後、部数を増やしていき、中身もどんどんやりたいことを妥協せずに放り込んでいった。制作費は全部僕が出していましたけど、最初の頃はみんな手弁当で、儲かったお金は全部他の号につぎ込むという形でしたたね。

加藤 それから『SFマガジン』の編集者から声がかかって、最初の単著『ゼロ年代の想像力』につながったんですか?

宇野 はい。『PLANETS』が売れ始めて、東京の出版社からお仕事をもらうようになった頃、以前に僕がメールを出した編集者の方が『SFマガジン』の塩澤編集長を紹介してくださったんです。そのとき、かなりゴツい企画書を持ち込んで売り込みました。字数的には1万字近い連載プランのような企画書でした。

加藤 すごい気合です(笑)。東京にはいつごろ、移転されたんですか?

宇野 『PLANETS』が始まって2号ぐらいのときでしたから、2006年ですね。もともと東京には移らないといけないと思っていたので、東京の会社に転職したんですよ。東京出てからも転職していますけどね。

加藤 おお、東京でも会社員をしていたんですね! なんだか意外です。会社員はいつごろまでやってましたか?

宇野 『ゼロ年代の想像力』が出てからちょっと経ったくらいですかね。だから、2008年の末くらいまで、ずっとスーツを着て勤め人をしていました。
 おかげ様で『ゼロ年代の想像力』が話題になって、仕事がドカッと増えたんですよ。もう仕事量的にも限界だし、お金的にも会社を辞めて物書きに専念したほうがよいなということで、辞めました。

加藤 会社員として食い扶持を確保しつつ物書きをして、そちらで生計が立ちそうだから、独立ということですね。非常に堅実な判断ですよね。
 おもしろいのが、物書きとしてやっていくことにしたところから、急にぶっとんでますよね。だって、いきなり会社を作って、自分の雑誌を作って活動するんですよね。普通は、出版社を通じて本や雑誌に原稿を書いたり、仮に雑誌を自分で作りたいとしても、出版社に企画を持ち込んで作るという手もありますよね。

宇野 物書きとして一本立ちする前からPLANETSという企画ユニットはあったので、同人サークルが大きくなって、法人化したという感じなんですよね。
 ただ、そもそも出版社に入って雑誌を作るという選択肢は長くやればやるほど「ないな」と思いましたね。ブレーン的にNHK出版や朝日新聞出版で出版社の雑誌に参加したこともあるんですよ。でもそのとき明確に思ったんですが、僕はこう見えてこだわりが強いので、無理ですね。やっぱり、自分が読みたいと思うものを自分で取材して書いて作るのが僕は好きだし、『PLANETS』はそれがやりたくて作った雑誌だったので。何をやるにも上司にハンコをもらわなければならないとなると、自分の思い通りにはならないでしょう。

加藤 たしかに。

宇野 『PLANETS』は3号くらいで3000部ぐらいになりました。定価が1500円とか1800円で消化率もずっと9割超えていたので、もう少し部数が大きくなったら個人でも出版社が出す紙の雑誌と戦えると思ったんですよね。赤字には一回もしていないんですよ。

加藤 この雑誌不況の時代にすばらしい実績ですね。

宇野 まあ当時は手弁当で手伝ってくれる仲間もいたし、僕のサラリーマンとしての収入も制作費に入れていたので、厳密にいえば商売として成り立ってはいませんでしたが、常に次の号の制作費が出るようにはしてました。

そもそも商売にしようとは思っていなかった

加藤 『PLANETS』は書店流通してたんですよね。どうやったんですか?

宇野 僕が一本一本、書店に電話して、「置いてください」とお願いしていました。

加藤 すごい。そこからやるんですね。最後は何店舗くらいが取り扱ってくれるようになったんですか?

宇野 7号目の時点で100店舗くらいでした。高田馬場の書店さんには、事務所から近かったので直接持っていったりしましたね。

加藤 『PLANETS』を刊行している中で、デジタルに対しての目配せみたいなのはなかったんですか?

宇野 いや、当時はデジタルのマネタイズは考えていませんでした。
 そもそも『PLANETS』を商売にしようとはあまり思っていなかったんです。そのころ『PLANETS』を出すのは自己実現だったんですよね。自分の納得のいくものを追求できるし、取材を通して勉強できるから、それを自分の書く本にフィードバックさせていけばいいと思っていました。
 あとは文化的な空間への介入装置として自分でメディアを持っている意味がすごく大きいと思っていました。『PLANETS』は昔から業界の人がこっそりアンチョコとして読んでいる雑誌でもあるので(笑)、僕もそれは狙っていたところもあるんですよね。シーンに介入していきたいなって気持ちがある時期まで強かった。採算度外視した媒体だから、アンテナの高さや内容の深さを実現できるんだという気持ちでやっていました。

加藤 たしかに、出版社ではこんなに突っ込んだ切り口では雑誌をつくるのは難しいでしょうね。紙版の『PLANETS』は今、何号まで出ているのでしょう?

宇野 昨年発売された9号「特集:東京2020 オルタナティブ・オリンピック・プロジェクト」が最後です。

加藤 ドワンゴのブロマガで「ほぼ日刊惑星開発委員会」を始めたのと、PLANETSが会社になったのは同じぐらいのタイミングですか?

宇野 ええ。どちらも本格的にスタートしたのは2014年ぐらいですね。2013年に出した『PLANETS』8号「僕たちは〈夜の世界〉を生きている」が自分にとってすごく達成感のある仕事で、1万5000部ぐらい出たんです。うちは営業が弱くて、当時は100店舗くらいしか扱ってくれる書店がなかったので、この数字は僕も驚きました。
 この後、1年ぐらい僕なりに試行錯誤が続くんですが、2014年の頭からそれまで細々とやっていたブロマガを今の形にしたとき、常駐スタッフの数を一気に増やして法人化したという流れです。ブロマガは、今の会社の業務の6ー7割くらいを占めています。なんせ、毎平日やっていますからね。

加藤 売上もブロマガが7割程度ですか?

宇野 いまは、その他にも、落合陽一さんの書籍『魔法の世紀』がかなり売れているので、ちょっと変わってくるかもしれませんね。

加藤 『魔法の世紀』はPLANETSで編集して自社で販売する初めての書籍なんですね。

宇野 そうなんです。僕が人生で最初に編集を手掛けた書籍が『魔法の世紀』なんですよ。ブロマガからは今までに、國分功一郎さんの『哲学の先生と人生の話をしよう』や、僕の対談集『静かなる革命のブループリント』など、何冊も本が生まれているんですが、全部外の出版社から出していたんです。自分たちで書籍を編集して流通まで行うのは、マンパワー的にちょっと難しかったんです。だけど、『魔法の世紀』の内容は僕も編集者として自信があったし、本にするなら自社でやるしかないと思ったんです。

そもそも起業はしたくなかったけれど……

加藤 すこし話が戻りますが、PLANETSをビジネスとしてやっていこうと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?

宇野 うーん、そうですね。そもそも僕はずっと起業はしたくないと思っていたんです。会社を作ってお金のことを考えて人生すり減らすのもいやだし、従業員のマネジメントというのもすごく精神的負担が大きいことだから、絶対嫌だと思っていて。僕の世代は起業への憧れというか、成功した起業家へのコンプレックスが強いひとが多いのだけど、僕はそういうのはまったくないんですよ。仕方なく自分の媒体の営業や予算管理もしてきたけど、コンテンツの中身のこと以外本当は1秒も考えたくない。

加藤 それがどうして心変わりをしたんですか?

宇野 それは僕の危機感に根ざしているんですよね。「そうも言ってられないな」というか。というのも、2010年か2011年くらいに「あ、出版業界って、終わるかもしれない」と思うようなことが何回かあったんです。
 その中で一つ言うと、出版社の社員編集者たちの仕事が粗くなった。1冊1冊に力が入ってないし、もらう仕事の企画がものすごく安直になった。なにせ、1年に10冊とかヘタしたら20冊近くも作らされている編集者もいるわけですから、1冊1冊に手間をかけられるわけがない。原稿の事実確認も行われない校正稿がそのまま送られてくることも増えました。

加藤 1年に20冊は無理ですよ。5冊くらいにしたいです。

宇野 それに、書き手としては1冊1冊が勝負なんです。僕、こう見えても凝り性な人間でして。

加藤 それはそうですよね。20分の1じゃ、困りますよね。

宇野 とはいえ、出版業界が制度疲労を起こしているとか、ビジネスモデル自体が壊れていくというのは、僕が出版業界と関わり始めたころから言われていたんですよ。だからこそインディーズとして、本当におもしろいものができて、インターネットを使えば商業誌を同じくらい広く届けることができるっていう確信を持ってやってきました。

加藤 なるほど。

宇野 だけど、それとは全く異なる次元で、僕が思っていたより出版ビジネスの崩壊のはじまりが5年早かった。本当はもう5年くらい、じっくり様子を見ながら準備したかったですね。ネットの茶番にも付き合いきれないし、マスコミを主戦場にするのも同じくらい馬鹿馬鹿しい。だから、自分が納得いく仕事をやるための場を自分で用意しないとダメなんだな、と思ったんですよね。そこで『PLANETS』をビジネス的にしっかりと成立させて、自分の活動の場を確保するしかないと思ったわけです。

加藤 僕は編集者ですが、やっぱり同じことを思って今の会社を作りました。このまま出版市場が縮小して、電子書籍もその市場を代替しないとすると、何かしなければいけないと思ったんですよね。
 僕が会社を辞めたのもちょうど同じころの2011年の年末ですから、何かが切り替わっていくタイミングだったのかもしれませんね。

宇野常寛(うの・つねひろ)

評論家。1978年生。批評誌〈PLANETS〉編集長。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『日本文化の論点』(筑摩書房)、石破茂との対談『こんな日本をつくりたい』(太田出版)、『静かなる革命へのブループリント この国の未来をつくる7つの対話』(河出書房新社)など多數。企画・編集参加に「思想地図 vol.4」(NHK出版)、「朝日ジャーナル 日本破壊計画」(朝日新聞出版)など。京都精華大学ポップカルチャー学部非常勤講師、立教大学兼任講師。「THE HANGOUT」月曜ナビゲーター(J-WAVE、2014年10月~)、「スッキリ!!」(日本テレビ、2015年4月~)のコメンテーターなど、その活動は多岐に渡る。

構成:大山くまお


宇野常寛さんとPLANETS編集部が、noteで、メールマガジン「Daily PLANETS」配信をスタート!猪子寿之さん、落合陽一さん、吉田尚記さんほか才能あふれるたくさんの方々と、政治からアート、サブカルチャーまで、才能あふれるたくさんの方々と、政治からアート、サブカルチャーまで、いま一番「おもしろい」と思っているひと・もの・ことについて手当たり次第に取り上げます。



この連載について

メディアビジネスの未来【特別編】

cakes編集部

出版不況が嘆かれるようになってから十数年が経ちますが、未だ状況は変わりそうにありません。KindleやAmazon、書店や現代人の読書方法が変化する中で、私たちは、書籍などのコンテンツとどのように付き合っていけば良いのでしょうか。 c...もっと読む

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コメント

g1wa おもしろい。 3年以上前 replyretweetfavorite

yasutaketin 宇野さんと加藤さんのこの対談はとても素晴らしい。サブカル以後、本の再発明が必要とはまさに。 3年以上前 replyretweetfavorite

awajiya [ "僕が思っていたより出版ビジネスの崩壊のはじまりが5年早かった。本当はもう5年くらい、じっくり様子を見ながら準備したかったですね"] 3年以上前 replyretweetfavorite

TwinTKchan 宇野常寛「出版業界のビジネスモデル自体が壊れていくというのは、僕が出版業界と関わり始めたころから言われていた。 インディーズとして、おもしろいものができて、インターネットを使えば商業誌を広く届けることができると思ってやってきた」 https://t.co/zprgDDOcGo 3年以上前 replyretweetfavorite