『クラウド・アトラス』(河出書房新社、上下)を読み終えるつもりがまったく進まず! そろそろ年度末なので仕事もだんだん詰まってきたし、3月刊行の訳書の仕上げとか解説とか……。
そんな中で、仕事にも関係あって手に取ったのが平野克己『経済大陸アフリカ』(中公新書)。献本されたんだけれど、一見してすぐに本屋でまとめて買って社内の連中に配った。で、ちょっと今回は本よりも仕事の話になってしまうけれど、お許しを。
アフリカはいまや、世界に残された数少ないフロンティアの一つで、これまで何をやっても停滞を続けてきたのに、ここ5年ほど少し調子がよく、安定した経済成長を示している。天然資源もあるし、いままでは面倒そうなので放置されていたけれど、たぶん探せばもっと出てくる。一方で、これまでは少し経済が安定したように見えると、すぐに内戦だの変な独裁者だのが登場してせっかくの成果がめちゃくちゃになることがあまりに多かった。
ジンバブエなんて、いまはハイパーインフレの破綻国家と思われているけれど、でも2000年代頭はものすごく好調だったんだよ。それがある日、いきなり大統領が変なことを言い始めて、あっという間に転落(ちなみに自国通貨を廃止してるので、いまはハイパーインフレではありません)。でも今度こそは……とみんながアフリカに期待しているんだけれど、本当のところはどうなのかを、非常にコンパクトながらも厳しく、でも希望を失わずにまとめているのがこの本だ。
そしてそこで大きな役割を果たしているのが中国の援助。中国が援助しているからアフリカが発展している、というわけではない。でも中国は、援助もやり、それに伴う金融もやり、貿易もいっしょにやる。援助で発電所や道路を造ると、そこに中国企業が建設や機器納入で入ってきて、それに中国の金融機関がお金をつけ、さらに労働者も中国人が大量に入ってきて、それに関連するビジネスもやり、さらに貸したお金の返済は資源にツバをつけつつ行い、という具合。
先進国は、こういう紐付きの援助はなるべくしないことにしている。それを野放図に認めてしまうと、地元の汚職政治家と癒着して、要りもしない施設をたくさん国民の税金で作ったりするようになるから。でも、援助だけではなかなか発展しない。それを使ったお金の流れをたくさん作らないとダメだ、というのも事実。とはいうものの、アフリカもなかなか奥が深くてこれまでの援助が失敗してきたいろんな理由がある。根深い民族抗争とか政治的なアレとかこれとか。いまや中国の援助もそういうところにぶつかりつつあってだんだんアフリカの泥沼にはまっているとのこと。うひひひ、それは楽しみ。
そして中国以外にも、アフリカにおけるいろんな開発トピックがうまくまとまっている。資源、BoPビジネス等々。新書のくせにここまで詰め込めるとは感心。アフリカにちょっとでも関心があれば是非どうぞ。アルジェリアのプラント襲撃も、まさに本書で指摘されている資源をめぐるゆがみと根深いアフリカの構造問題の合わせ技だ。
ちなみにBoPビジネスというのは、いままで客にならないと思われていた貧乏人も工夫次第で顧客になるし、かえってそうした人々を念頭においた商品開発をすると、底辺以上の人たち相手でもちゃんと商売になるよ、という発想。多少手前味噌になるけれど、ぼくの勤め先の連中が書いた野村総合研究所『BoPビジネス戦略』(東洋経済新報社)はそれなりにポイントはまとまっている。
で、さっき出てきた中国の話に注目したのが下村恭民、大橋英夫+日本国際問題研究所編『中国の対外援助』(日本経済評論社)。これはかなり専門的ではある。でも貴重な本。なぜかというと、中国の援助って現場にいても中身がわからないのだ。いったい中国はどういう条件で資金を貸し付けたりしているのか? 聞いても、秘密だからといって教えてくれないのだ。
噂はある。日本などのODAは、利息をつけて貸す場合ですら、金利1%で据え置き10年とか、ものすごい低金利で貸す。でも中国は結構高いという。そして、建設業者は「中国企業を使え」とか「設備は中国製ね」なんて、結構あこぎなことを言うし、契約を結んだあとで「やっぱりできないから条件変えろ」なんてこともあるらしい。
それでも途上国が中国に頼りたがるのは、日本などの先進国や世界銀行は、本当にそれが役に立つかをちゃんと調査しろとか、環境への影響を重視しろとか住民移転に気を遣えとか人権に配慮しろとか女性の地位向上にも役立てろとか、うるさいことをいろいろ言うのに、中国はそんなこと一切気にしないで即決だからだ、と言われる。ちなみに、先進国機関がいろいろ調査してお膳立てして何から何までやって、「あとはお願いだから環境アセスだけやってね」というところで、横から中国が入ってきて油揚げをさらわれる例もちらほら。