ミステリ史の中のSF史

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! 先日明治記念館にておこなわれた「小鷹信光さんを偲ぶ会」は、多くの人が来場し、ミステリのあれこれが語られました。今回はミステリについて語った、「SF観光局」の第4回を抜粋して再録します(SFマガジン2007年4月号より)。

 今回は、[雑誌〈フリースタイル〉に連載されている鏡明「マンハントとその時代」第四回の小鷹信光インタビューを引きつつ、双葉十三郎の功績を称え、大伴昌司を接点に紀田順一郎『戦後創成期ミステリ日記』(松籟社)を紹介する](前号より)予定なので、どんどん行こう。

 雑誌〈フリースタイル〉を発行するフリースタイルは、2000年に創立された新しい出版社。上下二巻合計8190円(税込)という超大作、都筑道夫『推理作家のできるまで』をいきなりドドーンと出して注目された。SFファンも必読のこの自伝的エッセイはめでたく日本推理作家協会賞を受賞したが、べつだんミステリ系の出版社というわけじゃなくて、ほかには片岡義男とか山田宏一とか松本大洋とか南伸坊とか『下北沢カタログ』とか久住昌之とか、年刊の『このマンガを読め!』とかを出してます。会社と同じ名前の季刊誌〈フリースタイル〉もだいたい同じようなゆったり路線。中でいちばんディープな連載が、鏡明「マンハントとその時代」。だれが読むんだこんなの! と毎回思うんですが、私は主にこれのために〈フリースタイル〉を買っているので、じつはそういう人が多数派かもしれない。ネット上でも読めないほど特殊な昔話こそ、いまや紙媒体最大のキラーコンテンツなのである(たぶん)。

 で、この特濃連載の第四回(同誌六号掲載)が、『私のハードボイルド』刊行記念、小鷹信光インタビュー。前フリ部分に[小鷹さんはぼくの大学の大先輩]とあるとおり、ともにワセダミステリクラブ出身で、小鷹信光は1936年生まれ、鏡明は1948年生まれだから、ちょうど一回り違う。こうした先輩後輩関係について、『私のハードボイルド』にいわく、

[若いミステリ・ファンは、古手の翻訳家や翻訳家から転向した物書き連中のわずかな年齢差などには何の関心もないと思うが、当時は一歳の年の差が先輩、後輩の序列をきびしく決めていた。私が“同期”にこだわるのもそのくせがあるからで、“先輩”と記せば、それだけで敬意をはらうべき年長者ということになる。いまとなっては、とくに若い人の目には同年輩のジイさまに思えるだろうが、中田耕治、都筑道夫は私にとっては“大先輩”であり、常盤新平、小林信彦(中原弓彦)、青木雨彦は“中先輩”、稲葉明雄、永井淳は“先輩”ということになる。そしてもう一人だいじな“先輩”が翻訳家の山下諭一だった。]

 たしかに、翻訳でメシを食っている私でさえ、自分より20歳以上年長の人々になるともはや年齢の上下がよくわからない。SF翻訳者に関しては、矢野徹(1923年)、浅倉久志(1930年)、伊藤典夫(1942年)を基準に頭の中でだいたいの生年ゾーンを区分けしてるわけですが、ミステリ方面は限りなく曖昧模糊としている。整理用のアンチョコとして昔つくった「SF/ミステリ関係者生年表・暫定版」で確認すると、引用文中に出てくる中田耕治は1927年生まれ(SF方面では『虎よ、虎よ!』の翻訳者として有名。余談ながら、05年に公式サイト「中田耕治ドットコム」がオープンしてコラムのウェブ連載がはじまったときは驚いた)。都筑道夫は1929年生まれ(福島正実、平井イサクと同じ)。“中先輩”の小林信彦と青木雨彦は32年、“先輩”の稲葉明雄は34年、永井淳は35年の生まれ。

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大森望の新SF観光局・cakes出張版

大森望

翻訳・解説・エッセイ・コラムと、SF界のオシゴトを縦横無尽にばりばりこなす超人・大森望氏。氏の〈SFマガジン〉誌上の連載コラム「大森望の新SF観光局」がcakesに出張! 知りたかったSF界のあれやこれやをcakesでもおたのしみいた...もっと読む

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nzm 大森望の新SF観光局・cakes出張版「」(再録) https://t.co/2XBMyxXpNy "鏡明「マンハントとその時代」の小鷹信光インタビューを引きつつ、双葉十三郎の功績を称え、大伴昌司を接点に紀田順一郎『戦後創成期ミステリ日記』(松籟社)を紹介" 3年以上前 replyretweetfavorite

daddyscar 大伴昌司に対する「SFサイドからの最大公約数的な評価」というのが興味深い。 |大森望 @nzm https://t.co/g4GAXcyF7f 3年以上前 replyretweetfavorite

Hayakawashobo 大森望氏によるSFマガジン誌上の人気連載、cakes出張版! まずはcakesからいきます! 3年以上前 replyretweetfavorite