勝家さんはロマンチストですか。

2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビューしたSF作家の柴田勝家さん。新作『クロニスタ 戦争人類学者』の発売を記念して、読者の皆様からの質問&柴田さんの回答を連載!

柴田勝家(しばた・かついえ)
1987年東京都生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻所属。
外来の民間信仰の伝播と信仰の変容を研究している。戦国武将の柴田勝家を敬愛する。


Q.エンタメSFとして柴田様がいちばん愛する作品はなんですか?そして負けたくないライバル作家はいますか? (伊藤正一さんからの質問)

.ワシが一番愛するエンタメSF作品ですが、実は小説ではなくて士郎正宗先生の漫画『攻殻機動隊』です。もちろん、アニメとしての映画版やTV版、ARISEも好きなんですが、ワシにとっては原作の2巻が一番だったりします。また通ぶりやがってオタクめ、と言われるのを覚悟しますが、本当に2巻が好きなんです。1巻の内容がそれぞれ映画やアニメの原作として使われる一方で、2巻の方は神秘的な要素が強く、現代的なテーマに舵を切った他の「攻殻」とは毛色が異なっていると思います。『仙術超攻殻ORION』のような神道的なモチーフや、精神世界といったものが後半から強くなっていって、それまでのサイバーパンク的な世界観から一歩突き抜ける部分が特に良いです。いつかこういった世界観を描きたいとも思っています。

 ライバル作家としてまず思い浮かぶのは、同年代で第一線で活躍している吉上亮先生ですね。作品の作りこみやスピーディでいて詳細な展開のさせ方には憧れます。そして第三回ハヤカワSFコンテストの受賞者である小川哲先生ですね。作品の端正な書き口は元より、そのイケメンぶりに嫉妬します。ぐぬぬ。


Q.「ラノベ」というジャンルは、SFやファンタジーと何が違うと思いますか?(みなとさんからの質問)

A.ワシも本が好きな大学生程度にはラノベも読みますが、SFやファンタジーとしてレベルの高い(実際に別のレーベルから再刊行とかされるくらい)作品にも出会ってきました。そうなると、これは単純に売り方の違いであるようにも思います。

 あとは一方で、読者層を想定したレーベルとしての「ライトノベル」ではなく、SFやファンタジーと並ぶジャンルとしての「ラノベ」が現れていると思っています。タイムマシンを使うように異能力というガジェットを使い、ドラゴンを出すようにツンデレというキャラクターを出す。一つの様式美というか、ラノベというものがこれまで培ってきた要素を組み合わせることで完成する作品もあるはずです。

 ただし中には変格や、圧倒的なオリジナリティを発揮する作品も現れる場であり、そういう意味ではまだ自由も残っているのかな、と。もしも完全に「ラノベ」というジャンルが確立されれば、今度はまたどこかで定義付けられない混沌とした小説の集まる場(今はWEB小説サイトが近いかも)が現れるかもしれませんね。 とりあえず今から全力で異世界転生もの肌色の成分が多い感じの作品を勉強するんで待ってて下さい。


  • Q.ご自身が(アイマスの)プロデューサーとなったキッカケを教えてください。
  • ライブという「いま‐ここ」制のあるコンテンツを映像と観客によって繋ぐライブビューイングってかなりSFな技術だなぁと思いながらサイリウムを振っているのですが、SF作家かつプロデューサーである柴田勝家先生が見るライブビューイングの意味や価値を教えてください。(遠山悠夏さんからの質問)


  • A.ワシがプロデューサーになったきっかけは、それこそニコニコ動画でアイマスMADが流行った頃に見たことですね。最初は星井美希に心惹かれたものです。それから複数のゲームとラジオ、それにアニメを経てきました。そしてシンデレラガールズが始まった時にスマホに機種変しました。さらにデレステが始まった時に新しいスマホに変えました。
  • ライブビューイングは単純にチケットを取れなかった人だけでなく、遠征の難しい地方や海外の人を同じ場に繋ぐ貴重なものだと思います。また現地とは別種の感動も得られるものだと思います。そしてSF的な意味でいえば、今でさえ現地と各地の会場での参加者はSNSでリアルタイムに繋がっているし、今後はVR技術やAR技術を交えた先進的なライブビューイングが行われるかもしれません。今まででは叶わなかった、感動のリアルタイムでの共有というものが、これからも推し進められると思います。

以下、『クロニスタ』についての質問です。(物語のネタバレはありません)


Q.本作は哲学的・人間的な問いを与えてくれる作品ですね。自己相によってもたらされたものが「正しい」のか「誤っている」のか、人間はどう判断していけばいいのでしょう。いつのまにか、人は自己相の奴隷になってしまうのでは、と怖くなりました。時代が流れれば、この自己相を管理・運用している主体がそもそも何なのかも不明確になる。待つのは主体なきシステムだけが残る、自己相をもたらざるものへの弾圧と虐殺のような気がして……。  (柴田勝家を愛でる会・会長さんからの質問)

※自己相…作中に登場する、生体通信によって個々人の認知や感情を人類全体で共有できるテクノロジー。

A.自己相によってもたらされたものが「正しい」のか「誤っている」のか、それはとても難しい問いですね。自己相は人々の社会を覆っている「空気」のようなものをシステムとして取り入れた設定になります。

 質問からは少し離れてしまうのですが、今現在も、インターネットで書き込みをしている自分の意識はどこにあるのかとか、そういうことを考える時があります。PCやスマホを操作している自分は、ネット上での振る舞いとは一切関係なく存在していて、いつか肉体が意味をなさない時が来るかもしれないとかも考えます。そんな時に、人は意識の主体を自己相的なものに統合させてしまうのか、はたまた肉体に自分だけの意識が宿ると信じて生きるのか。まだどちらが良いことなのか結論がでませんし、それこそ「時代の空気」次第でいかようにも変わってしまうかもしれません。


Q.「とんだ呼び出しだな。雨も降り始めやがった。こんな夜ほど、俺は唄いたくなる」
…主人公シズマの親友、デレクのセリフが名言揃いで痺れました。けれどもしも、彼らのセリフ自体が膨大なデータベースから引っ張り出された共有物の一部にすぎないとしたら……そんな何も信じられなくなりそうな世界だからこそ、逆に何気ないひとことが胸をうちます。ヒユラミールの「あの星が、好き」という言葉は真実だと響きました。
…すみません感想になってしまいました。柴田さんはロマンチストですか
(広田智義さんからの質問)

A.ワシは多分にロマンチストだと思います。『クロニスタ』の作中でも少しだけ書きましたが、柳田國男折口信夫、昔の名だたる民俗学者・人類学者の多くが、独自のロマンを追い求めていたように思います。人間の感情感覚風習伝統といった、確かに存在しているけれど取り出して見ることの叶わないものを扱う学問分野というのは、実証的であらねばならぬという意思を持ちつつ、その根底には研究者の情熱ありきの部分が大きいと思います。この辺は、ワシはまだまだ若輩者ですから、大きなことは言えぬのですが。

 作中で主人公のシズマはロマンに衝き動かされていきます。未知を追い求める心性は、大なり小なり誰しも持っていると思うのですが、それが時に良いようにも悪いようにも振れる時があると思います。知らなければ良かったこと、そういったものは数多くあると思いますが、それでも人は好奇心を捨てられない。未知に立ち向かう人間を描きたい、というのが『クロニスタ』のテーマの一つでもあり、ワシ自身が持っているロマンでもあります。



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クロニスタ』刊行記念 柴田勝家Q&A

柴田勝家

2014年に『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞してデビューしたSF作家の柴田勝家さん。今月24日に新作『クロニスタ 戦争人類学者』が発売することを記念して、読者の皆様から柴田さんへの質問を募集します。質問が採用され...もっと読む

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yajyuro @MiuraYusi SF作家(not戦国武将) https://t.co/sf6LbywoOX https://t.co/KozKVl8SK0 3年以上前 replyretweetfavorite

Hayakawashobo 武将の名を冠する存在が、現象として今ここにいる。エイプリルフールの何かではなく。 cakes、本日は2本更新ですよ! 4年以上前 replyretweetfavorite