幸せになる勇気

哲人は述べる。「暴力は、未熟なコミュニケーションである」

学内で喧嘩があった時の青年の対応を聞いた哲人は告げます。教師が本来やるべきことは、喧嘩の「原因」を探ることではなく、その「目的」に着目し、「これからどうするか」を考えることだと。100万部を突破したベストセラー『嫌われる勇気』待望の続編『幸せになる勇気』より、第二部を特別掲載いたします。

 哲人が語った「問題行動の5段階」。その内実は、たしかに人間心理を的確に捉えたものであり、アドラーの真骨頂を垣間見せるものだった。しかし、と青年は思う。わたしは学級を預かる唯一の大人であり、社会に生きる人間としての範を示さなければならない存在だ。すなわち、罪を犯した者には罰を与えなければ、この「社会」の秩序が崩れてしまう。わたしは理論で人間を弄ぶ哲学者ではなく、子どもたちの明日に責任を負った教育者なのだ。この男にはわかるまい、現実世界に生きる人間の、責任の重さなど!

暴力という名のコミュニケーション

青年 さあ、どこからはじめますか?

哲人 そうですね。仮にあなたの学級で、暴力沙汰の喧嘩があったとしましょう。些細な言い争いが、拳を交えるような喧嘩に発展してしまった。あなたはこのふたりをどうしますか?

青年 そのパターンでしたら大声で𠮟ったりはしませんよ。むしろ冷静に双方の言い分を聞くでしょうね。お互いをなだめ、ゆっくりと「どうして喧嘩になったんだ」とか「なんで殴ったんだ」とか、そんなことを聞いていきます。

哲人 生徒たちはどう答えるでしょう?

青年 まあ「彼がこんなことを言ったから、頭にきた」とか「こんなひどいことをされた」とか、そんなところでしょう。

哲人 それであなたはどうします?

青年 お互いの言い分を聞いて、どちらに非があるかを見定め、非のあるほうに謝ってもらいます。とはいえ、すべての争いごとにはお互いに非があるわけですから、双方に謝ってもらうことになりますね。

哲人 二人は納得するでしょうか?

青年 そりゃあ、自分の言い分にこだわりますよ。ただ、少しでもいいから「自分にも非があったのかもしれない」と思ってくれたら、それでよしとします。喧嘩両成敗ってやつです。

哲人 なるほど。それでは仮に、あなたの手元に先ほどの三角柱があったとします。

青年 三角柱?

哲人 ええ。一面には「悪いあの人」、もう一面には「かわいそうなわたし」、そして最後の一面に「これからどうするか」と書かれている。われわれカウンセラーがこの三角柱を使うように、あなたも三角柱をイメージして生徒の話を聞くのです。

青年 ……どういうことでしょう?

哲人 生徒たちが語っている「彼がこんなことを言った」「こんなひどいことをされた」という喧嘩の理由。これを三角柱で考えてみると、けっきょくは「悪いあの人」と「かわいそうなわたし」になっていませんか?

青年 ……ええ、まあ。

哲人 あなたは生徒たちに「原因」ばかりを聞いている。そこをいくら掘り下げても、責任放棄と言い訳の言葉しか出てきません。あなたのやるべきことは、彼らの「目的」に注目し、彼らと共に「これからどうするか」を考えることなのです。

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幸せになる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教えII

--- - "岸見 一郎" - "古賀 史健"
ダイヤモンド社
2016-02-26

この連載について

初回を読む
幸せになる勇気

岸見一郎 /古賀史健

『嫌われる勇気』から3年後、教師になった青年は再び、哲人のもとを訪ねる。「アドラーを捨てる」という、思ってもみなかった決意を胸にして。本当に「世界はシンプルであり、人生もまたシンプル」なのか。それとも「アドラー心理学」は現...もっと読む

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コメント

uma_klpe 一定の合意を取りつけたとき、はじめてコミュニケーションは意味を持つ。「強制的な合意の決定権」をぶん取ろうとするのが暴力なのだなあ。> 1年以上前 replyretweetfavorite

bear_yoshi 「暴力とは、どこまでもコストの低い、安直なコミュニケーション手段なのです。」 1年以上前 replyretweetfavorite