お金の「いい使い方」とは?
いつのまにか、ぼくは自分が挑んだ勝負のことをすっかり忘れて、ソクラテスの話に魅了されてしまっていた。「人間の価値は『何を持っているか』ではなく『どう生きたか』によって決まる」という彼の主張は、当たり前のことを言っているようだが、見かけ以上に深遠な真理を語っているようにも思える。
ただ、話の中身に完全に共感できるかというと、そんなことはなくて、腑に落ちない点もいくつか残っていた。ぼくは、その疑問を、どうしてもソクラテスにぶつけなければならないと思った。
サトル「ところで、ソクラテスさんはさっき『いい使い方』とおっしゃいましたけど、お金にしても、ほかのものにしても、自分のものをどう使うかは基本的に個人の自由ですよね? 要は、本人が使いたいと思ったことに使えば、それでいいんじゃないですか? そもそも『いい使い方』って何なんですか?」
ソクラテス「さすがサトルくん。いい質問だ。だんだん議論が核心に近づいてきたぞ」
サトル「そうでしょうか。ぼくにはむしろ、どんどん遠ざかっているように思えますが」
ソクラテス「まあ、そう言わずに聞いてくれ。いいかい、ぼくが考える『いい使い方』とは、大切な人のために使ったり、立派で美しいことのために使ったりする、そういうお金の使い方のことだ。そういう使い方ができない人は、いくらお金を持っていても不幸せだとぼくは主張する」
サトル「どうして?」
ソクラテス「なぜって、友達や恋人よりもお金のことを気にかけるような人のことを、キミは『幸せ』だと思えるかい?」
サトル「……いえ」
ソクラテス「じゃあ、自分の欲求を満たす以外になすべきことを持たない人はどうかな?」
サトル「それも、人としてどうかと思いますね」
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