考えてみなきゃわからない
ソクラテス「……親愛なるサトルくん、ぼくにはやっぱり、キミの話を理解する能力が根本的に欠けているみたいだ。せっかく何度も説明してもらったのに、すまないね」
ソクラテスは、本当に申し訳なさそうな様子で、頭をボリボリかいている。今日こそは言い負かしてやろうと思っていたのに、こうもあっさり降参されると拍子抜けしてしまう。ぼくは完全に戦意を失った。
サトル「……もう。将来の生活に備えなきゃ大変なことになるっていう、それだけの話なのに。どうしてわからないのかなぁ。でも、まあ、老後のために資産が必要なのはたしかなわけですし、お金がないなら、まずはちゃんとした仕事を見つけなきゃいけませんよね? そういうわけですから、ソクラテスさん、まずは投資の元手を稼ぐことからはじめましょうか」
ソクラテス「親切なご忠告、どうもありがとう。話の中身はぜんぜん理解できなかったけど、キミの善意は疑いようがないし、ぼくとしても、キミの提案を受け入れるのはやぶさかではない」
サトル「そうですか。それはよかった。それじゃまず、ハローワークに行って、求人を探して……」
ソクラテス「でも、その前に、大切な問題を考えておかないと。『人間はいかに生きるべきか』という、このうえなく重要な問題についてね」