ソクラテス「キミはいま、採用担当者が気に入るタイプの人間であるフリをして、会社にもぐりこもうとしているんだよね?」
サトル「そうあからさまに言われるとイラッとしますが、でも、言いたいのはそういうことです」
ソクラテス「しかし、どうだろう。そんなふうにして会社に入れば、キミは、キミ自身のあり方を偽ることで高い評価が得られる場に、長く身を置くことになるんじゃないかな?」
サトル「まあ、そう言えないこともないですね」
ソクラテス「それって、キミにとってすごく不幸なことじゃないのかな? ほかの人から認められるために、自分をごまかしつづけなきゃいけないっていうのは」
サトル「……たしかに。でも、大人になるって、そういうことじゃないでしょうか。人生には我慢がつきものだし、『自分を大切に』とか、『本当の自分』とか、青臭いことばかり言っていてもしょうがないでしょう」
ソクラテス「なるほど。ぼくの話は、大人のキミには青臭く聞こえるんだね」
サトル「皮肉を言うんですね」
ソクラテス「とんでもない! ぼくは本当に、キミのことを立派な大人だと思っているんだよ! だけどね、サトルくん、やっぱりこれだけはキミに言っておきたい。このまま自分をごまかしてほかの人に迎合しつづければ、いまにキミは自分の生に対する支配権を失って、自分の生き方を自分で決められない奴隷的な人間になってしまうだろう。