サトル「この際だから本音を言わせてもらいます。さっきは危うくだまされそうになりましたけど、自己分析は、採用担当者にアピールするためのツールとして、間違いなく役に立ちますよ。哲学なんかより、ずっとね。
ソクラテスさんは何かと『論理的に』とか『合理的に』とかおっしゃいますけど、そもそもこの社会は、根本的に不合理なんです。やりたい仕事ができる人なんてほんのひと握りなのに、それでもみんな、必死に自分のやる気と適性をアピールしなくちゃいけない。
この生きにくい世の中でちょっとでもましな人生を送りたければ、そうするしかないんですよ」
ソクラテス「するとキミは、自分の魂がどうあるかということ以上に、自分の魂が他人の目にどう映るかを気にかけなきゃいけないと、少なくともそうすることが正当化される場合がありうるんだと、そういうふうに考えているわけだね?」
サトル「……そういう見方もできるかもしれません。ただ、ソクラテスさんは世捨て人同然だから、そういう穿った見方をするんだと思います。ちゃんと地に足をつけて現実的に物事を考えれば、そんな言い方はできないはずです」
ソクラテス「なるほど。キミの言うことには一理あるな。ぼくはたしかに世捨て人同然だし、浮世の楽しみに見向きもしないために、死人同然だって言われてるくらいだから」
サトル「ほら、やっぱり」
魂を劣悪なものにしないために
いらだちのあまり、ずいぶん辛辣なことを言ってしまった。でも、ソクラテスはべつだん気を悪くした様子もなく、むしろぼくの挑戦を喜んでいるように見えた。
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