期待しないでくれ、わたしは無能なのだから
青年 無能の証明?
哲人 はい。ここはひとつ、自分自身のこととして考えてみてください。「特別な存在」として扱われようと、ここまでさまざまな策を講じてきたものの、どれもうまくいかない。親も教師も級友も、憎むことさえしてくれない。学級にも家庭にも、自分の「居場所」を見出せない。……あなただったらどうしますか?
青年 さっさとあきらめるでしょう。なにをやっても認めてもらえないのですから。なんの努力もしなくなるでしょうね。
哲人 でも、親や教師は、あなたにもっと勉強するようにお説教したり、学校での態度や友だち関係について、事あるごとに介入してくるでしょう。無論、あなたを援助しようと思って。
青年 余計なお世話です! そんなもの、うまくやれるのなら、とっくにやっていますよ。いっさい構わないでほしいですね。
哲人 その思いも理解してもらえません。周囲はあなたにもっとがんばってもらいたいと思っている。やればできるし、自分の働きかけによって変わるはずだと期待している。
青年 そんな期待、大迷惑だと言っているでしょう! 放っておいていただきたい。
哲人 ……そう、まさにその「これ以上わたしに期待しないでくれ」という思いが「無能の証明」につながるのです。
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