「どうでもいい話なんだけどさぁ、」と言って話し始められると、無性に寂しくなってしまう。
話がどうでもいいかどうかを決めるのは、話の内容ではない。話す人だ。今日の朝ごはん、昨日すれ違ったおっさん、どのような“どうでもいい話”をしていようと関係ない。その話を他ならぬ私にしてくれる、それだけでその人は私にとって決してどうでもよくない大事な人になる。だから、その人に「どうでもいい話なんだけどさぁ」と話し始められると、なんだかどこか寂しくなってしまうのだ。勝手に。
「どうでもいい話なんだけどさぁ、」というのが口癖の人を見ると、無性に羨ましくなってしまう。
そういう人はたぶん、子どもの頃に、帰ったら毎日毎日“どうでもいい話”を聞いてくれる親や養育者に愛されて育ってきたんだろう。愛は受容だと思う。くしゃみをしたら鼻水が出たこと、帰り道に干からびたミミズが転がっていたこと、その人に起こった何もかもを「うん、うん」ってただ聞くということは、すごく、愛だと思う。喜びに声を上げられるように、怒りや悲しみが内側にこもってしまわないように、その人の言葉にならない気持ちまで「うん、うん」って受け止めてあげられることは、すごく、愛だと思う。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。