FOK46—フォークオーケン46歳
【第2回】『トリロジー』

 少年の頃、まさか自分が”ロック”を生業とする大人になるなど夢にも思っていなかった。

 表現欲はあった。
 ネットはなかった。

 “何者かになりたい君”たちは必然的に、それぞれ自分の発表の場を模索する必要があった。
 80年代の東京で青春を送っていると、それにはライブハウスが最も適していた。
 ライブハウスに出て自分を発表するためには、似たような性分の友人を集めて、便宜的にバンドを名乗らなければならなかった。

 そんなやむにやまれぬ事情から僕はロックを始め、40代になってまで続けていて(もう、便宜上なんだか必然だったんだかわからない)、日本武道館でライブを行い、翌日、友人の通夜に向かうためタクシーで斎場へと向かっていた。

 40代のフルライブ翌日におけるバンドマンの体調とは一言で言えば“ポンコツ”である。
 ヘドバンで首、リズムで膝、煽りのための動作で上腕二頭筋が熱を帯び重痛い。
 声はつぶれ『犬神家の一族』の“スケキヨ”のようだ。

 一番困るのは視界がぼやけることだ。
 運転手が道を間違え、タクシーはどことも知れぬ住宅街の裏道を迷走した。
 ぼやけた目で見る細い路地裏の風景は、遠い昔に小学校の授業が終って同級生のウラッコと共に歩いた、彼の家へ着くまでの、細い道の入り組んだ、懐かしい町並と重なって見えて仕方がなく、タクシーの中で僕は心の置きどころに困った。

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小説 FOK46—フォークオーケン46歳

大槻ケンヂ

30年以上音楽活動を続けてきた、ロックミュージシャンの大槻ケンヂ。楽器演奏と歌を歌うのを同時にできないという理由で、ボーカルに徹してきた彼が、2012年、ギターの弾き語りでのソロツアーを始めた。その名も『FOK46(フォークオーケン4...もっと読む

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